今ヨーロッパではドラムンベースがかつてない、過去最高の盛り上がりを見せている。
そして、その象徴がチェコで開催されているフェス『Let It Roll』。
シーンの最高峰のその舞台に、今年DJ AKiの出演が決定した。これは日本人として初。
しかし、そこには様々な苦難があり、今回はそれを乗り越えるべくクラウドファンディングを実施したのだが……
その驚くべき結果が意味するものとは……。『Let It Roll』、そして日本のドラムンベースの今に迫る。

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——まずは出演が決まったときの気持ちは?

素直に嬉しかったです。昨年もオファーを頂いていましたが、スケジュールの都合で断念していて。WOMBで16年間に渡って毎月開催している『06S』を通して築いた海外のドラムンベースの主要レーベルやアーティストとの繋がりは太く、長くなり、なおかつDJとして認めてもらえている実感を改めて感じました。東京での活動は間違っていなかったなと思います。

——AKiさんにとって『Let It Roll』とは?

20年間ドラムンベースDJとして活動していますが、2000年代には『Let It Roll』のようなフェスがチェコ共和国で行われるとは誰も想像できなかったと思います。3日間で200組のアーティストが出演し、10万人近い人々が集まるその規模感は世界最大の夢の祭典であり、現在ヨーロッパで拡大しているシーンを3日間でまとめて体感できる、まさに縮図だと思います。

そんな『Let It Roll』に参加するのは日本人としては初めてなので、今は日本代表として自分のDJスタイルがどこまで通用するのか試してみたい気持ちが大きいです。そして、どんな仕組みでこのフェスが成立し、できあがったのか。それは自分が日本で実現したいと思っていることのひとつなので学べるポイントを吸収し、今後の日本のシーンに還元したいと考えています。

——当日はどんなプレイを?

昨年オーストリアの3都市でDJをし、今のヨーロッパのオーディエンスが何を求めているのかを知る機会があったので、彼らに響くであろう楽曲を選び抜き、1時間を疾走するような流れの中で、より自分のDJスタイルにこだわり表現したいです。

——フェスに出演するにしても、費用は全て主催者から出るわけではない。いくらフェスバブルと言われても、それが現実です。そこで、今回は開催地チェコまでの渡航費をクラウドファンディングで募集されましたが、開始から9時間で目標金額をクリア。この結果については?

これほど多くの人たちが愛を注いでくれるとは想像していませんでしたし、現在は300%近い支援をもらい、正直驚きました。みなさんへの感謝と感動とともに、このプロジェクトに対する妄想もさらに広がり、新たな目標が見えてきました。

クラウドファンディングの大きな魅力として、目標を達成してもその先にストレッチゴールを設定できる。そこで、今回支援をしてくれた人たちと何がしたいのかを考えた結果、みなさんとこの旅を共有できたら最高だと思い、チェコへの旅路のショートドキュメンタリーをVRで表現する、そんなチャレンジをしてみたいと思っています。同行するクルーに様子を360°カメラで撮影してもらい、旅の中での刺激的な場面をひとつにまとめ、共有できればと思ってます。

——この素晴らしい結果からは、日本のシーンの未来も明るいのかなと思いました。

ポテンシャルは間違いなくあると信じていますし、これからもシーン拡大ための活動は続けていきたいですね。

——どうすれば、よりよいドラムンベースシーンができると思いますか?

日本人の間でもこの音楽にハマれる人が潜在的に存在しているのが、これまでの経験で感じているので、より多くの街を訪れてDJをすると同時に、ラジオやストリーミングで1人でも多くの人の耳に届けることが大事だと思います。さらには、日本のサウンドの定義付けが確立できるような音を生み出し、世界的な認知度をあげるのも重要。今後の世代にリアルなサウンドを伝え、それを受け取った人の中から日本独自のサウンドを生む優秀なプロデューサーが出現するといいですね。

——ちなみに、今AKiさんが注目している日本人の若手は?

昨年20代の若者のみで立ち上がったsub dudeというレーベルは期待しています。特にMaozonとBadmythの楽曲は興味をそそられる要素満載で、今後も注目したいです。


——世界を見れば、ドラムンベースはヨーロッパで再び大きな盛り上がりを見せています。それはなぜだと思います?

音楽性と同時に、若い世代の優秀なプロデューサーやDJ、プロモーターが次々に出現しているのが大きいですね。シーンのトレンドは移り変わりが早く、常に循環されていますが、ドラムンベースは独自の進化を続けていると思います。

——今の音楽的なトレンドは“ニューロファンクバブル”。その特徴は?

細分化が進むドラムンベースの中のジャンルのひとつです。オーガニックや歌物などによってカテゴリーされるリキッド系と真逆のサウンドと捉えると分かりやすいかも知れません。よりハードでダークな雰囲気を持ちつつ、サイバー。エド・ラッシュ、ノイジア、ブラック・サン・エンパイアに代表されるアーティストが作る音が現在のヨーロッパの主流です。

——では、今のシーンを語る上で欠かせないアーティストは?

数えるとキリがありませんが、今年の上半期はキル・ボックス、サブ・フォーカス、プロリックス、Erb n Dub、Agressor Bunxなどが注目です。


——最後に今年活動20周年を迎えましたが、AKi さんにとってドラムンベースとは?

今となってはこの音楽なくしては語れず、この音楽があるからこそ自分の人生が成立している、と思います。音楽は好きで子供のころから様々な音楽を聴いていますが、ドラムンベースは他ジャンルからの音楽性をも取り込めるところも大きな魅力のひとつ。

20年間この音楽を隅々まで掘りまくって、最も深い知識がそこに溜まっているし、僕自身はドラムンベースがあるから世界各国でたくさんの経験を積むことが出来ました。26歳からDJを始めて以来、ドラムンベースは自分の人生そのものです。

『Let It Roll』とは……

チェコ共和国で2003年から開催されているドラムンベース・オンリーのフェス。2010年代以降、ドラムンベースのEU圏での爆発的な盛り上がりとともに、その規模感は拡大。近年では3日間で200組以上のアーティストが出演し、数万人規模の観客を動員。ドラムンベース界で最もステータスのある世界最高峰の舞台となっている。そんな本祭に今年DJ AKiが日本人として初めて出演することが決定。それに向けたプロジェクト“LET AKi ROLL”が開始された。

DJ Aki
DJアキ
ドラムンベースDJ・プロデューサー。DJとしては渋谷WOMBで開催されているアジア最大のドラムンベースパーティ『O6S』のレジデントを中心に、『FUJI ROCK』や『ULTRA JAPAN』といったフェスへの出演。その他、国内外で活躍。05年にはレーベル06S RECORDSを設立し、オリジナル&リミックス作品も発表。現在はユニットASYとしても活動し、日本のドラムンベースシーンを牽引する。