トーマス・ウェズリー・ペンツことディプロ。現在、彼が全世界の音楽シーンでもっとも注目されるアーティストのひとりであることを疑う者はいないだろう。

ディプロの凄みは、リリースする曲のすべてがワールドワイドなヒットを記録しているというだけではない。ダンスミュージックシーンが巨大化し、画一化された曲が増えるなか、決してセルアウトすることない独自のスタイルでムーブメントを生み出していることだ。
“Lean On”や“Where Are U Now”などに代表されるように、これまでのEDMの様式美にはない斬新なプロダクションの数々は、近年のダンスミュージックシーンの白眉であった。

それでいて、ディプロは多作家でもある。本人名義、スクリレックスとのユニット:ジャック・Ü、ダンスホールレゲエに特化したユニット:メイジャー・レイザーから自身が主宰するレーベル:MAD DECENT関連の楽曲までをも手掛けているのだから、常にシーンをにぎわせてくれるのも納得であろう。

またディプロは、歯に衣着せぬ発言で良くも悪くもメディアに取り上げられる。
テイラー・スウィフトのような優等生的なスターには世辞や建前を使わず皮肉たっぷりに人をこきおろすこともあれば、バッシングされることが多いジャスティン・ビーバーには擁護をするなど、なにかと正道を嫌うような傾向は彼の音楽スタイル同様にぶれることはない。
SNSの隆盛により、DJやプロデューサー同士の舌戦も近年では珍しくないが、ディプロの為すことには得も言われぬ色気がある。“誰もがやらないことをやる”“やんちゃな37歳の悪童”そんなイメージ。破天荒なプライベートと革新的な音楽の同居は、まるで往年のロックスターのようなカリスマ性を放っている。

これまでに本誌でも幾度となくディプロを取り上げてきたが、この機会に改めて彼のキャリアとその魅力を掘り下げていきたいと思う。

Keyword of Diplo 01

Produce


“Lean On”でインドがモチーフになったように世界各地のトラディショナルなサウンドを最新の音楽スタイルに融合することで、その名を馳せるディプロ。
彼の名が一躍知られることとなったのは、00年代中盤におけるM.I.Aのプロデュースで、特に傑作と名高い「Kala」では、現在まで変わらない“ディプロ流”を見ることができる。エレクトロニック・ミュージックとM.I.Aのルーツであるタミル音楽やソカなどをミックスしたスタイルは世界に衝撃を与え、無名のDJだったディプロはこのヒットをきっかけに、ブルーノ・マーズ、マドンナ、ビヨンセ、ジャスティン・ビーバーらを手掛ける超売れっ子プロデューサーとなった。

一方で、自身のレーベル:MAD DECENTからは発掘したアンダーグラウンドサウンドのプロデュースを続けている。社会現象となったバウアーの“Harlem Shake”はその一例だが、彼はアンダーとオーバーの両シーンでフレッシュなサウンドを生み出し続けることで、リスナーはもちろん、アーティストからも絶大な支持を獲得している。

Keyword of Diplo 02

MAD DECENT


ディプロは、主宰レーベル:MAD DECENTを2005年にスタートした。設立当初から、バイレファンキをメインとしたボンヂ・ド・ホレやクルッカーズ、サンティゴールド(当時はサントゴールド名義)といった後にブレイクする人気アーティストを発掘しており、そのカタログはディプロの先見性が溢れるものとなっている。
また、UKベースミュージックの雄、ラスコーや韓国のCL(2NE1)などもいち早く紹介しており、ジャンルも国籍も無節操だが、そのほとんどがブレイクしている事実にディプロの審美眼が光る。

MAD DECENTの作品をチェックしていればネクスト・ブレイクがわかる、とは過言かもしれないが、間違いなく新しい驚きに出会えるはずだ。近年では、先述のバウアー“Harlem Shake”のほか、DJスネーク、ディロン・フランシス“Get Low”をリリースし、トゥワークのムーブメントを巻き起こしたのが、記憶に新しいところ。今後もここから新たな潮流が生まれてくるはずだ。

Keyword of Diplo 03

Major Lazer

ml

ディプロがもっとも情熱を注いでいる活動が、ダンスホールレゲエ・ユニット、メイジャー・レイザーだ。
2009年にスウィッチとともにスタートしたこのプロジェクトは幾度かの変遷を経て、現在はディプロ、ウォルシー・ファイア、ジリオネアの3人組となる。アメコミ風の架空の軍人、レイザー大佐のメインアイコンが有名で、作品ごとにダンスホールレゲエのイメージを刷新している。

今年発表の最新作「Peace Is The Mission」では、アリアナ・グランデ、エリー・ゴールディングというUS、UKの2大歌姫を迎えながらも、一貫してラガ、ラガ。普段、レゲエとは無縁のアーティストの異なる一面が見られることは、レゲエ普及に大いに貢献した。

そして、つい先日、2017年にリリース予定のアルバムから先行シングル“Cold Water”が解禁。“Lean On”でボーカルを取ったムーとジャスティン・ビーバーを迎えすでに大きな話題となっている今作は、スロウテンポのラブソング。ぜひチェックしてもらいたい。

Keyword of Diplo 04

Jack Ü


“ブロウステップ”と呼ばれるジャンルを確立し、デビューからわずかの期間でグラミー賞を6冠受賞したスクリレックスとディプロが手を組んだのは、2013年。同じダンスミュージックを土俵に、革新的なサウンドを生み出し続けてきた2人の初作は、蓋を開けてみると、やっぱりどこにもない新しい音楽が溢れていた。

ゲストアーティストにジャスティン・ビーバー(!)やカイザらが参加したことでも話題をさらったが、なにより評価すべきは、まったくの未知の音楽であったにも関わらず世界中のリスナーに突き刺さったことだ。2015年だけで音楽認識アプリ:Shazamで4000万回検索されたのは、その証左。
デビュー直後に、世界最大級のフェス『ULTRA MUSIC FESTIVAL』のヘッドライナーを務めたほか、ディプロが過去に3度ノミネートされながらも受賞に至らなかったグラミー賞でもジャック・Üで2冠を達成するなど、名実ともにディプロを世界トッププロデューサーに押し上げた。

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Awards

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ジャック・Üの項でも触れたが、ディプロは2016年のもっとも権威ある音楽アワードであるグラミー賞で悲願の2冠を達成した。グラミー賞は初受賞となったが、2015年にはその他多くのアワードを獲得している。

まずはいまや世界の潮流となっているストリーミングサイト:Spotifyでは“Lean On”が、2015年に「もっとも再生された楽曲」で1位を獲得。再生数は5億超(2015年末時点)で、同サイトのオールタイムベストだ。ディプロが海外のインタビューで「“Lean On”が(グラミーに)ノミネートされればよかった……」とこぼしているのも納得。

さらにMTVヨーロッパ・ミュージックアワードで最優秀コラボレーション賞、アメリカの音楽メディアBillboardの「EDMシーンで最も影響力のあるアーティスト14組」にセレクトされた。
また2015年にもっともShazamされたアーティストになった際は、「誰も俺のことを知らないってことだろ」と皮肉っていたことも追記しておこう。

Keyword of Diplo 06

Topics

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1年に1回米経済誌フォーブスで年収ランキングが発表されるなど、いまやDJ/プロデューサーはセレブ〜スーパースター。“英雄色を好む”ではないが、ディプロはプライベート面でも大いに話題を振りまいている。

長い時間をともに過ごすと、ただならぬ関係に陥りがちなのが、男女の仲。自身がプロデュースを務めたM.I.Aと過去に付き合ったことに端を発し、破局後はキャサリン・ロックハートとの間に長男ロケット君をもうける。そして、お次は世界屈指の人気を誇る歌姫、ケイティ・ペリーとの熱愛が報じられる、といった具合。
ケイティと犬猿の仲と言われるテイラー・スウィフトを口撃したのもこの頃。彼女の敵は俺の敵、とも言わんばかりの子供っぽさが面白い。と思ったら、その間にキャサリンとの間に次男が誕生……なにやってんですかね、ディプロさん。

今年8月には6年ぶりにM.I.A(元カノ)に楽曲を提供してたけど、こっちには手を付けていないことを祈ります。

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electrox 2017

2017.1.7.SAT

OPEN/START 13:00

幕張メッセ(Chiba)

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