それはEDM勃興前夜……2000年代中期以降、シーンを席巻したエレクトロ・ムーブメントにおいて、その中核を成していたのが彼ら、イェンス・モ エルとイスメイル・トゥエフェッキ(イシ)の2人よるDJデュオ、デジタリズム。

ときにハード、ときに甘美でホリックな魅力を携えダンスミュージック・シーンを彩るエレクトロに、彼らはテクノやインディロックのアプローチを施し、さらには一時のムーブメントには屈することのない確固たるオリジナリティを兼ね備え人気を博してきた。

そんなデジタリズムの約5年ぶりとなるニュー・アルバム「Mirage」。
本作に寄せてイェンスは、

“まず第一に、今作は僕たちの考えをそのまま投影した、言うならば脳のスキャン・データなんだ。
僕たち2人の世界のサウンドトラックでありながら、その曖昧さから他の人にも意味を持たせ、それぞれ自分なりに解釈することができるんだ。

最高で美しくて、それでいてもろい。一歩足を踏み入れて、ハマってしまったパラレル・ワールドのような。
もしくはそこから現実に戻ってきて、再び訪れる日を夢見るような、そんな風に人々の想像力を刺激する作品だよ”

と語る。
「Mirage」を一聴してみるとまさにその通り。全15曲に及ぶ今作からは様々な画が浮かんでは消えていく、その様は虚像を映し出すミラージュ(蜃気楼)そのものだ。

前作から5年というモラトリアムの中でダンスミュージック・シーンはEDMに呑まれ、大波に荒れ狂うなか、彼らは真摯に自らの音楽と向き合い、曲を生み出してきた。

その結晶がまさに今作。それは躍動感に溢れ、享楽的であり夢想的で、それでいて美しくも儚い、様々な感情を喚起させつつもダイレクトにフィジカルに訴える、デジタリズムの最高傑作と言えるだろう。

エレクトロのスタンダードと言えるような普遍的な香り漂う“Arena”で幕を開ける今作。2曲目の“Battlecry”では一気にテンションがギアチェンジされ、確実にフロアをロックする様が浮かぶパワフルなナンバーに。

そして、続く“Go Time”は疾走感に溢れたデジタリックなロック・チューン。
冒頭の3曲だけでもその振り幅、彼らならではの魅力が満載でデジタリズムの真価を感じさせてくれるが、かたやそこには彼らの進化も垣間見える。

それはこれまでとは異なるソングライティング。よりサウンドと密接に絡まりつつも“歌”という部分での主張。単にメロディに乗せた音ではなく、そこには確固とした意欲を感じさせる。

デジタリズムの名前を一躍世界へと知らしめた“Pogo”のような荒削りな勢いを残しつつ、より緻密に練られたソングライティングは今作における白眉のひとつだ。

そして、その後もこれまた赴きが異なるドリーミーな“Utopia”。
いわばフィジカル的な冒頭の3曲に比べ、このインストゥルメンタルは精神を刺激し、リスナーを別世界へと向かわせ、続く“Destination Breakdown”もスタイルは違えど前曲の流れを汲み、耽美な世界観をさらに拡張。

かと思えば、ダンスライクな“Power Station”で現実のフロアへと引き戻し、躍動感溢れる“Open Waters”で身体を開放させていく。

そして、今作のタイトル曲にもなっている“Mirage”二部作へ。

心と体を解き放った後に迎えるこの壮大な連作は、ある種彼らにとってひとつの挑戦とも言えるだろう。
タイトル曲であるだけに、今作における重要なファクターであることは間違いない。
が、それがダンスミュージックとはまた一線を画す、何か大きな物事の胎動を思わせるようなサウンドとなっていることは、デジタリズムにとって今作がひとつの契機と考えているからに違いない。

これまでダンスミュージック界を颯爽と駆け抜けてきた彼ら自身、今作が新たな目覚め、ここからデジタリズムとしての新たな音楽が始まる、そんな気概をも感じさせる。

今作はあくまでダンスミュージックのアルバムではあるのだが、まるで生命の誕生をも想起させる壮大でエネルギッシュなこの楽曲からは、ダンスミュージックの範疇にとどまることのないデジタリズムの大きなポテンシャルを知ることができるのだ。

しかし、もしかしたらそれもまたMirage、蜃気楼が見せる幻影なのかもしれないが……。
そんな幻のような世界を作り上げた後の“Indigo Skies”もまた興味深い。

まるで映画のエンドロールのような、ある種の終末感が漂うこの曲が“Mirage”の後にあることで、改めて全てはフィクションだったかのような感覚を漂わせるあたりはとても巧妙だ。
もしも、ここでアルバムが終わっていたならば、それはそれで締まりがよく、物語としての文脈も正しい結果だったと言えるだろう。

しかし、デジタリズムはここでは終わらない。

今から5年前、前作「I Love You, Dude」をリリースした際に開催されたジャパン・ツアーで、彼らは東京でのファイナルを大円団のもと終えた後、急遽秋葉原のクラブにDJとして緊急出演。

そこではライヴとはまた違った魅力を振りまきながら、そのラストにはなんとAKB48の“会いたかった”をマッシュアップ。
これは会場内だけでなく、ネットでも大きな話題となり、今でも“デジタリズム”と検索すると“デジタリズム AKB”と関連ワードが出て来るほどのインパクトを残した。

そんなエンターテインメント性に溢れる彼らの作品がそこで終わるわけがないのだ。
既存の物語の文脈では語れない、そのアンストッパブルなところもまたいかにも彼ららしい。

物語はここから再び加速し、楽しませてくれるのがデジタリズムなのだ。そんな思いを実感させてくれるかのような、新たな始まりを告げるデジタリック・クライシス“Dynamo”。
決してスパークさせるわけではなく、かといってディープに進むわけでもない、その絶妙なバランス感はさすがだ。

さらには一気にBPMがあがり、これまでのデジタリズムにはなかったゲットー感漂う“The Ism”。

ここでまた新しさを見せるのか! という驚きに圧倒させられていると、理想郷、桃源郷を意味する“Shangri-La”では、まるで“Utopia”のデジャブのような感覚に。

もちろん音楽性はまったく異なるのだが、今作におけるストーリーテリングと、様々な形で耳を惹き付けるセレンディピティは、確実に聴くものを音楽に没入させ、惑わせる。

そして、豊満なエレクトロ“No Cash”へと渡り、ラストは“Indigo Skies”とはまた違ったエピローグ“Blink”。
なんとも心地よいこのエンドロールは、直訳すると瞬きをする、見逃すといった意味を成すのだが、今作においてはそういった楽曲のタイトルもまたとても意味深で興味深く、そこにはきっとデジタリズムならではの思惑がありつつ、そんな思いさえも煙に巻いているようなペダンティックな彼らの顔が思い浮かぶ。

日々様々な潮流が生まれていく、移り気なダンスミュージックのイデオロギーに縛られることなく、デジタリズムは独自の道を歩み続けてきた。

そして、もはやエレクトロの一言では括ることのできない、未知の領域へと踏み込んだ「Mirage」。そして、めくるめく展開の中で行き着く先は、まさにイェンスが語る“パラレル・ワールド”。そして、その世界に浸れば浸るほど思い焦がれるリアリティ。
彼らの真骨頂でもあるライヴでは今作がどう帰結するのか。それはまた新たな形となり、楽しませてくれることは間違いない。

それだけに、今作をひっさげいち早く来日してくれることを切に願うばかりだ。

jpg1xE2016030716

Digitalism
『Mirage』

Magnetism Recording Co./ Hostess
2016.5.13発売

body_120643

EVENT INFORMATION

SUMMERSONIC 2016

2016.8.20(SAT)21(SUN)

【OPEN/START】9:00 / 11:00

QVC マリンフィールド&幕張メッセ(東京公演)/ 舞洲サマーソニック大阪特設会場(大阪公演)

1日券 ¥16,500 / 2日券 ¥30,500 / プラチナチケット ¥30,000

RADIOHEAD / UNDERWORLD / FERGIE / ALESSO / サカナクション / Digitalism / THE 1975 / [Alexandoros] / FLO RIDA / MARK RONSON / JAMES BAY / THE JACKSONS / MAYER HAWTHORNE / BABY METAL / TWO DOOR CINEMA CLUB / METAFIVE / MØ and more

インフォメーション