00 年代のWARP レーベルの象徴的アーティストであるクラークが
最新作「Clark」をリリースした。01 年「Clarence Park」、06 年「Body Riddle」、
08 年「Turning Dragon」、そして前作「Iradelphic」(12 年)とこれまでにリリースしてきた
オリジナルアルバムはどれも疑いようのない名作だった。
このタイミングでセルフタイトルを冠した作品をリリースする真意とは?
ワールドツアーに出発する直前の本人をキャッチした。

――あなたには年中楽曲制作をしているイメージがありますが、本作の制作に入ったのはいつ頃からですか?

「スタートしたのは、今年の2月。イギリスの田舎に籠もって、何もない環境の中でアルバムを作ったんだ。WARPには4月には完成すると言っていたんだけど、4月の終わりが近づいてくると『あと一週間!』とお願いして延期してもらって、結局6月までかかってしまった(笑)。『あと一週間!』を8回繰り返したんだ(笑)。俺はいつもそう。このアルバムは他と比較して、もっと早く完成すると思ったんだけどね。4カ月という期間は、短すぎず長すぎない時間だと思う」

――(拠点である)ベルリンからイギリスへ移動したのですか?

「彼女がプロジェクトでツアーに出てしまって、その間に1人でベルリンに居たくなかったからイギリスに行くことにしたんだ。ベルリンって色々あるから気が散ってしまってね。だから田舎に行って自分と向き合いたかった。一日中作業をしていたよ、修行僧みたいにね(笑)」

――本作のアイデアの根幹になったものはなんでしょうか?

「リリースが11月と決まっていたから、冬に合う作品にしたいってのがひとつのアイデアだった。ロマンティックで、冷たいサウンドでありながらも温かみのある感情が含まれているような……。そして、アートワークもダークだから、もっとエレクトロニックとテクノにフォーカスしたサウンドを作るというのがアイデアだったね。完全にエレクトロニックということだけが唯一設定した境界線で、それだけがルール。自分のアルバムはすべてが繋がっているんだ。どの作品にも違いがあるけど、ラップスターがいきなりオペラを書くくらい違うわけじゃない。世界観は同じ。本作は、『Turning Dragon』ともっとも繋がっているかもしれない。あのアルバムが垢抜けた感じかな」

――本作でもっとも驚いたことはセルフタイトルになっていることです。

「制作を始めた時に、俺はアルバムのタイトルってものにちょっと飽きていたんだ。今回の作品は自分のサウンドの“結び”みたいな内容だったから、自分の名前を付けようと思ったんだ。そういう強いフィーリングがあってね。でも、最初は曲が全然出来ていなかったから、それが正しいかどうかの確信が持てなかったんだ。でも、徐々に曲が出来てくると、『これはセルフタイトルだ』って思えるようになってきたんだ」

――オフィシャルの発言で、「外向的な作品で、外の世界のサウンドを取り入れている」と発言されています。以前よりフィールドレコーディングは行っていたと思いますが、本作は特にそういった部分に注力したということですか?

「“冬”に結びついた作品だから、“冬が持つ感情のランドスケープ”を持たせたかった。昔からテープに録り溜めているフィールドレコーディングを使うことにしたんだ。雷や雪の上を歩く足音に風、そして雨などのオーガニックなサウンド。コンピューターで作られた音だけじゃなくて、こういった音を背景に使うと面白いと思ったんだ。聴こえるのはすごく微か。微かだけど、それが存在することでサウンドが濃くなっているんだ」

――自然音と機械音の対比という点に関して、どのようにお考えですか?

「その対比は、俺にとってすごく面白いコントラストなんだ。機械的なサウンドの中には、人間のコントロールが感じられる。自然というものを機械的に思考することは、普段なかなかないことだよね。テクノロジーで構築されたサウンドを自然で表現する。それが興味深かった。特にこのアルバムは最先端のテクノロジーを駆使して制作しているから、なおさらそのコントラストが面白いんだよ」

――例えば、他にはどのような自然音を使用していますか? “Ship Is Flooding”では風の音が聴けますが。

「あの曲の最初は、雪風の音。あと椅子の音が使われている。椅子を木の床にこすりつけた音。耳障りの悪い音は、その音なんだ(笑)。いま聴かせるよ――(音を聴かせてくれる)――。タイトルの通りに船の汽笛みたいに聴こえるだろ? 録音場所にはスペースもあったから、エコーもかかっている。これがテクノサウンドに異なる世界観をもたらしてくれる。お気に入りの音だね」

――冬の雰囲気を出すために使用したのは具体的にはどのような自然音ですか?

「“Strength Through Fragility”や“Sodium Trimmers”には結構“冬の音”が使われている。雪のサウンドは、靴で雪を踏むバリバリという音。あの音も大好きだ。あとは雷雨の音も使っている。フィールドレコーディングは、サブリミナルみたいな微妙さでわかるようになっている。分かりやすいよりもそっちの方が効果的だからね。」

――“Banjo”はタイトル通りに、楽器のバンジョーからインスピレーションを受けた曲ですか?

「曲が完成したときに、一瞬バンジョーみたいに聴こえると思ったんだ。でも、それは5秒だけで、あとは全然バンジョーに聴こえなかった(笑)。自分にとってこのタイトルはジョークみたいなもの。アドレナリンが出るクラブソングだね。凄くシンプルだし、コードは3つで、小さな要素を繋げて作っている。複雑すぎるよりミニマルな方がいいからね」

――あなたのこれまでのカタログを改めて見つめ直すと、自身の音楽志向の変化をどのように考えますか?

「難しいな……。あまり一歩引いて自分の音楽を見つめ直すタイプじゃないからね。それは俺が引退してからやることだ。俺にとって音楽とは、前進して変化すること。例えば、この前“Empty The BonesOf You”を聴く機会があった。いま俺があの作品を作ったとしても、同じことをするだろうなと思ったよ。でも、10年前の曲を聴くと、いまの自分だったら違うことをやるな、と思うこともある。……つまり自分の変化は自分じゃわからない。クリエイティビティに関しても、俺はのめり込んでしまうからわからない。アルバム制作で1日12時間作業したとしても、仕事だと感じないんだ。モチベーションをキープしようと努力する必要がなくて、逆に作業が終わるまでストップすることができない。俺にとって制作は仕事や義務じゃないんだ」

本作「Clark」は、彼のインタビュー中の発言にあるように“冬”の情景が感情豊かに描かれている。まるで優れた一篇の叙事詩か一枚の風景画のように、聴く者のイマジネーションをかきたててくれる音楽。こう表現すると環境音楽のように伝わる恐れがあるので、強調しておくが、クラブオリエンテッドな楽曲も多く収録されており、「Turning Dragon」や「Body Riddle」時の狂気をはらんだ興奮と「Iradelphic」のようなメロディックで温かみも備えている傑作だ。本人はセルフタイトルを付けた理由をさらっと答えているが、本作を聴いていただければ、これこそがクラークの集大成だと納得していただけるはずである。