FLOOR編集部が独断と偏見でピックアップした各メディアのチャートをもとに、2015年の音楽シーンを俯瞰して読み解いていくする本企画。
主要音楽メディアのチャートを分析した前回の記事に続き、今回はダンスミュージックを専門にする『DJ Mag』そして『RA』のランキングをチェック。
メジャーフィールドもを席巻するEDMとアンダーグラウンドの双方の、楽曲ではなくアーティストに焦点をあてて、2015年のシーンを紐解いていく。

DJ Mag

ついにハードウェルが王者陥落!
新王者に踊り出たのはあのふたり!

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2013、14年と連覇したハードウェルに代わり、DJ Magのランキングで見事1位に輝いたのはディミトリ・ヴェガス&ライク・マイク

彼らの魅力と言えば、その圧倒的なパフォーマンス力とともに、数多くのフロア・アンセムを量産してきたプロデューサーとしての実力。
ベスト10を見ても、EDM=プロデューサー至上主義的な構図は今なお健在ということだ。

dimitri

また、もう1つの背景としては『Tomorrowland』の存在がある。
彼らは2010年に同フェスのホスト&レジデントとなり、同時にアンセムを制作。それに呼応するようにランキングでも着々とランクアップしてきた結果、いよいよ1位に。

つまり、現在のシーンではやはりフェスの存在が大きく、なかでも『Tomorrowland』の存在感が増している、と言えるだろう。それは、ディミトリ・ヴェガス&ライク・マイクとともに、もう1人のレジデントであるイヴ・ヴィーが21ランクアップしたことからも伺える。

その他、ランキングを見てみると12位にオリヴァー・ヘルデンス、20位にディプロ、30位にドン・ディアブロ、32位にDJスネイク、さらにはカイゴが32位に初登場と、直球EDMとはまた異なる路線のアーティストが大きく躍進しているところから、シーンの移り変わりも感じるところ。

oliver

オリヴァー・ヘルデンスは、2014年から注目され始めたフューチャー・ハウス界の寵児。
よりハウス色の強いそのサウンドは2015年も引き続き注目され、EDMの新ジャンルとも叫ばれているが、その代表選手が12位にランクインしていることは興味深い。

また、ディプロやDJスネイクといったトワーク、トラップ系の台頭。
すでにアメリカのビルボードでは、メジャー・レイザー&DJスネイクの“Lean On (feat. MØ)”がチャート1位を飾り、その他も大ヒットが続出しているだけにその流れも見逃せない。

音楽的な流れとしては王道的なEDMサウンドは落ち着きつつ、フューチャー・ハウス系、そしてトワーク&トラップ系が盛り上がりを見せている。

フェスにおけるビッグルーム化はまだまだ進行しつつも、その中で変化する音楽性は今後も加速していきそうな気がする一方、彼らがまだまだ健在なアーミン、ティエスト、ゲッタらベテラン勢に今後どう向かっていくのか。それは、2016年以降の注目点。

さらに、新勢力にとってはDJ Magのランキングには脇目も触れず、DJたちがマス化していくなかで我が道を行くスタイル(例えばスクリレックスのような)が今後主流になっていくのかもしれない。
それは、ある種ダンスミュージック・シーンの原点回帰にも近い部分があるが、ここまで大きくなったEDMシーンにおいてそれがどう影響するのかとても興味深いところだ。

<出典>
Top 100 DJs 2015
TOP 10 ALBUMS OF 2015

RA

アンダーグラウンドの微細な動きを見逃さない堅実なランキング

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アンダーグラウンドシーンに特化したRAの硬派なランキング。
こちらも読者投票だが、DJ Magの結果とは毎回一線を画するので、そのコントラストが非常に面白い。

簡単に言えばEDMランキングとアンダーグラウンドDJランキングだ。
1位は3年連続となり、もはや絶対的な王者の風格が漂うディクソン
彼の主宰レーベルのInnervisions所属アーティストも依然高い人気を誇っており、アーム(DJ部門9位/LIVE部門3位)、Mano Le Tough(15位)など相変わらずの多士済々ぶり。

その魅力を一言でいうならば「質実剛健」。自身のスタイルを貫き、常に変化を恐れない姿勢、一晩におけるプレイの精度の高さ……そのすべてにおいてディクソンは抜きん出た支持を獲得した。

後述するレーベルランキングにInnervisionsの名はないが、『ADE』や『BPM』などの国際的なカンファレンスでも他のレーベルを圧倒する存在感を見せており、すでに別格の印象。

ほかにトップ10圏内で目立った事象は、BOILER ROOMで披露したアーマンド・ヴァン・ヘルデンとのB2Bがインターネットを通じて爆発的なバズを引き起こしたグラスゴー出身のハウスDJのジャックマスターが昨年の11位から5位にランクアップ。

また最新作「Morning/Evening」がアンダーグラウンドヒットを記録したフォー・テットが昨年の90位から11位とジャンプアップ。
本作は2曲収録ながらも各曲が20分にも及ぶ壮大なサウンドスケープを描き出しており、IDM/エレクトロニカシーンではすでにその名は轟いている彼の面目躍如となった。
さらにジェイミー・xxやカリブー、フローティング・ポインツ、スクリレックスといった各ジャンルの今旬アーティストたちとB2Bを行ってきたことが、各シーンのファン層の獲得となったと予想出来る。

あとはテイル・オブ・アスセス・トロクスラージェイミー・ジョーンズマセオ・プレックスなど常連の顔ぶれが並ぶ。

ベン・クロックRødhådなどベルグハイン系のディープなテクノも相変わらずの高い人気を誇っているが、さらに興味深かったのが、大御所DJのランク変動である。
『Sonar』を皮切りに最新のプラスティックマンのショーケースを世界各地で披露したリッチー・ホウティンが13位から21位に、スヴェン・フェイトが15位から29位へと下降。
ともにテクノシーンではレジェンド級のビッグアーティストだが、世代交代の波に押しやられたのか……。
そういえばふたりともEDM系のフェス『Tomorrowland』に出演していたが、それがコアなファン層に忌避されたなんてことはないか。

レーベルランキングに目を向けると、12位にランクインしたオランダのレーベル:Rush Hourの躍進が目立つ。
所属アーティストであるHuneeがランキング初登場ながら26位となり、日本人アーティスト:寺田創一の「SOUNDS FROM THE FAR EAST」がBest Compilation2015を獲得。
母国オランダで開催された『ADE』でのショーケースも爆発的な人気を博していた。

またランキング外ではあったが、テイル・オブ・アス、マインド・アゲインスト(同18位)がリリースを重ねるサグファッカー率いるLIFE AND DEATHも躍進を遂げている。(DJ AWARDS 2015でも「RECORD LABEL OF THE YEAR」を獲得)

日本でも高い人気を誇る美人DJ、ニーナ・クラヴィッツが自身のランクを上げるとともに主宰レーベル:Tripも8位にランクイン。

シーンの細かい動きに対するリスナーのリアクションが細部に反映された興味深い結果となった。

<出典>
RA Poll: Top DJs of 2015
RA Poll: Top 20 labels of 2015

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「世界のチャートから紐解く2015年の音楽事情|主要メディア編」