容易に定義できない、だがそれゆえに心が揺さぶられる音楽というものが存在する。
ベース・ミュージックの枠を常に拡張する異才:ザ・バグとトム・ヨークも心酔する男:アクトレス。
共に今年、聴く者の心に後々まで残る棘を刺すような、衝撃的なアルバムを発表した。
そんな強烈な2組の狂宴が9月、日本で実現する。ザ・バグのインタビューとあわせてその魅力を紹介しよう。

 

「音楽よ、安らかに眠れ」──
問題作『Ghettoville』の衝撃が続く中、アクトレスが来日

 

「音楽よ、安らかに眠れ」──そんな意味深なメッセージが添えられたアクトレスの最新アルバム『Ghettoville』は2014年を代表する一枚だ。
「トム・ヨークが目下、最も心酔するアーティストの一人」と紹介されることの多いアクトレス。確かに、繊細にして霞がかった音像、デトロイト・テクノを下敷きに、ベース・ミュージック的でもある複雑なリズムのレイヤーはいかにもトム・ヨーク好みだ。
しかしセオ・パリッシュのようにサイケデリックでファンキーでもある。また寂しげなようで、どこか達観したような詩情もある。そのように多面的で一筋縄に理解できないからこそ、アクトレスの音楽は強烈な印象を残す。
そんなアクトレスが9月に来日し、代官山UNITでライヴを披露する。それも、これまた異能の凄玉、ザ・バグとのジョイント・ツアーだ。

ザ・バグことケヴィン・マーティンはON-Uサウンドの流れを汲むUKベース・ミュージックの古株にして、エレクトロニック・ミュージックの裏街道を1990年代から歩む男だ。
マイ・ブラディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズらとの電子音楽ユニット:E.A.R.、またグラインド・コアのナパーム・デスのメンバーと組んだハードコア・テクノユニット:ゴッド、近年注力してきたダブ・プロジェクトのキング・ミダス・サウンドと、常に刺激的な存在であり続けている。

その両者が相まみえるステージは、果たしてどんな夜になるのか。8月に6年ぶりのアルバム『Angels & Davils』を発表したばかりのザ・バグにインタビューを行った。

 

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──新作『Angels & Davils』はどんなアルバムですか?

「俺は何事においても極端なもの(extreme)に関心があるんだ。文化にせよ、アートにせよ、音楽にせよ、俺は極端なものに惹かれる傾向があって、中間の、中途半端で機能的なだけのものは退屈だ。
このアルバムに関して言えば、前作『London Zoo』からの連続性を意識していたんだ。今まで築き上げてきたものと全く関係のないものは作りたくなかったから、俺がやったのは、パラメーターを両方向にさらに広げたということ。だから結果として『London Zoo』よりも二極化した内容になった。
それと同時に、『極端なもの同士が繋がっていく』という現象にも興味があるんだ。例えば愛情が憎しみにひっくり返るさまだったり、天使が悪魔に、悪魔が天使に姿を変える瞬間。誰もが悪魔、罪人としての一面を持っている。それを音楽を通して掘り下げた結果が、このアルバムだと考えてもらえばいい」

──アルバムには多数のアンダーグラウンドMCが参加していますね。

「共演したヴォーカリストのみんなや、全部の曲については語り尽くせないけど、例えばゴンジャスフィは、初めて彼の音楽を聴いたときから大ファンになったんだ。完全に自分の世界を持っている天才だと思ったね。
デス・グリップスは、彼らの最初のビデオ『Guillotine』にとても感銘を受けた。自分がかつてやっていたテクノ・アニマルというプロジェクトを思い出したんだ。ラップを取り入れていたということだけでなく、リズムやノイズや、何層にも重ねたベースといった点においても共通点があった。
テクノ・アニマルは、ヒップホップの奴たちにはノイジー過ぎて、テクノやノイズの奴らにはヒップホップ過ぎた。だから俺たちはまるでゾンビしかいない無人地帯に置き去りにされてしまった。それが、活動を休止した理由のひとつでもあった。壁に頭を打ち付けているような敗北感があったんだ。
だけどデス・グリップスは、俺たちがやっていたことと似たような動機を持っていると感じた。そこに感動したんだ。とても嬉しかったよ」

──デス・グリップスといえば、7月に解散声明を出しましたね。

「もし本当に解散してしまったのだとしたら、とても悲しいよ。今、音楽を通して意見を伝えようとしている奴があまりに少ない。今の音楽は中立的なものばかりで、ただの生活のアクセサリーになってしまっている。
デス・グリップスは、人々の目の前に何かをつきつけるような奴らだ。アンチなスタンスを持っている。
俺が今まで特に好きになった音楽は、だいたい最初に聴いたときには拒絶反応があったものなんだ。『What the Fuck?(一体何なんだこれは?)』という反応。パブリック・エネミーなんかもそうで、初めて聴いた時には頭痛がしたよ(笑)。デス・グリップスも全く同じで、彼らのような音楽……それは音楽的なスタイルという意味ではなくて、強烈さを持った音楽がもっと増えてほしいと願っているよ」

──9月に日本で共演するアクトレスについてはどう思いますか?

「アクトレスもそういうアーティストの一人さ。俺はアクトレスの大ファンだ。独自のプロダクションと美学を持っていて、好きか嫌いかも判断できない、一体何なのか理解できない音楽。そういう音楽の方が、それが何なのか知りたくて興味を惹かれ、つい聴いてしまう。
彼が今年の頭に出したアルバムがものすごく注目を集めたことに、俺は逆にショックを受けたよ。これだけめちゃくちゃな音楽を聴く人がこんなに存在するのか、と。このことは、俺を含めた世界中の変人に希望を与えたと思う(笑)。日本で、彼の音楽を大きなサウンドシステムで聴くのが楽しみだな」

──日本の印象は?

「俺のガールフレンドも日本人なので、日本に友達はたくさんいるんだ。GOTH -TRADやENAもよく知ってるし、初期のDJ KRUSHもファンだった。
昔から日本の文学、映画、音楽などアート全般にはとても興味があった。でもこれまで4回日本に行ってみてわかったのは、日本は極端に保守的な国であり、俺が好きな日本のアーティストたちは、本国では完全なフリークス(変人)だったということ。彼らは、日本の核である強力な保守主義と闘っていたのだと知った。
日本にはとても独特な道徳観があり、そういうところも含めて面白い国だと思う」

──9月の来日公演、当日のオーディエンスにメッセージをお願いします。

「騒々しくて、挑戦的で、超ヘヴィーで超サイケデリックなステージになる。楽しみにしてくれ!」