1997年、華々しく世界へと羽ばたき始めたと同時に、奇しくもいた時期に川島道行の脳腫瘍が発覚。
それ以降は病がもたらす死の恐怖に抗いながら、音楽活動を続けてきたBOOM BOOM SATELLITES(以下BBS)。

彼らは先日キャリア最終作となる「LAY YOUR HANDS ON ME」を発表。

19年にも及ぶ活動の終焉について、そしてBBSの全てを語ってくれた中野雅之へのインタビューに続く本稿では、ふたりのキャリアを振り返ることで改めてBBSの音楽性の変遷、功績を確認していきたい。

1995〜1997
デビューから世界への躍進

中野雅之と川島道行がBBSを結成したのは1990年。
音源デビューは、1995年に田中フミヤの主宰レーベルがリリースしたコンピレーション作に提供した“Dub Me Crazy”だが、BBSの名が一躍世界中に轟いたのは、1997年となる。

バブル景気が崩壊し、“ディスコブーム”や“ジュリアナブーム”の加熱も冷め、世紀末の混沌と不安が渦巻くなか、“希望”が求められた時代。

音楽シーンではUKを中心にケミカル・ブラザーズやファットボーイ・スリム、プロディジーによるダンスミュージックとロックの融合、いわゆる“ビッグビート”と呼ばれるムーブメントが起こっていた。

そんな情勢下、コアな音楽ファンにとって、ベルギーの名門レーベルR&Sから「4 A Moment Of Silence / The Wonderful Wizard of Dub」(「4A Moment〜」は、その後映画『ダークナイト』の劇中歌として再度陽の目を見る)をリリースし、世界中から絶賛されたBBSは、間違いなく希望だった。世界と時差のない日本産の尖った音楽。

1995年に野茂英雄がメジャーリーグで旋風を巻き起こしたように、音楽ではBBSが“世界に認められた”1990年代半ば。ダンススミュージックの高揚感とロックンロールのマインドをまとい、BBSは始動した。

A_1997Joyride

1998~2004
世界の第一線を走りつづける

1998年にはUKツアーを敢行し、シングルカットした“JOYRIDE”が NME誌の「シングル・オブ・ザ・イヤー」を獲得するなど、前年からの勢いを加速させていったBBS。

『グラストンベリー・フェスティバル』『V98』『ROSKILDE』など矢継ぎ早に世界的な野外フェスにも出演を果たしたことで、その名声を揺るぎないものにしていくが、BBSのBBSたるゆえんは地位や名声を獲得しても、オルタナティブでありエクスペリメンタルな“バンド”で在りつづけたことだ。

B_1998

1stアルバム「OUT LOUD」(1998年)のリリース後は、モービーとともにUSツアーを開催するなど、キャリア初期のBBSは世界を舞台にした活動が目立つ。

もちろん日本でも耳の早いリスナーから熱狂的な支持を得ていたが、一般的な認知度を獲得するきっかけとなったのは、映画『APPLESEED』(2004年)の公開を待たなくてはいけない。

坂本龍一、ベースメト・ジャックス、ポール・オークンフォールドなど錚々たるアーティストが楽曲提供をした同作のなかで、BBSは主題歌を担当。

その“DIVE FOR YOU”は、中盤の転調からガラッと雰囲気を変えつつも、最後まで疾走感を維持していく中毒性と革新性をはらんだ彼らの代表曲のひとつだ。

2005~2010
映像作品との親和性と近未来を表す音楽

2005年、過去に小誌のインタビューで「ステディ(安定した)でストレートなものを目指した」と語った4thアルバム『Full Of Elevating Pleasures』をリリース。

D_2006ON

そして、2006年には、これまでにCMタイアップがいくつも付いた彼らの代表曲“Kick It Out”が収録された「ON」をリリースするなど多作期に入る。

『APPLESEED』の“DIVE FOR YOU”以降、BBSは映像作品とのタイアップも顕著になる。『ダークナイト』(2008年公開。初期楽曲の“Scatterin’Monkey”が起用)、アニメ『忘念のザムド』(2009年。“BACK ON MY FEET”)、『ガンダム UC episode5(』2012年“BROKEN MIRROR”)など近未来の世界を描いた作品が多いのも特徴だ。

それはつまり、BBSの音楽性は映像喚起力が強い、という1点に集約される。
ロックとエレクトロの高純度の融合のなかには、非常に緻密で繊細な音作りがある。

1音1音が組み合わされて完成したドラマティックな曲の展開は、ストーリー性に富みながらも、リスナーに創造力の余地を残す抜群のバランスを保っている。

この00年代中盤から10年代までのBBSは、4枚のアルバムをリリースし、創作活動はもっとも盛んな時期となり、2010年の「TO THE LOVELESS」はオリコンチャート5位を記録するなど、BBSの最盛期となった。

F_2010TO_THE_LOVELES

2011~2016
病と闘いつづけたキャリアの終焉

2013年、通算8枚目となるアルバム「EMBRACE」のリリース直前に、川島道行は3度目の脳腫瘍を発症。
決定していたツアーとライヴをすべてキャンセルすると同時に、脳腫瘍であったことを初めて公表した。

G_2012BROKEN_MIRROR

先述したが、初めて脳腫瘍が発覚したのは、奇しくもR&Sからデビューを果たした1997年。
華々しい面にばかりフォーカスしてきたが、デビュー以降、徐々に進行する病の恐怖と闘いながらのキャリアであった。

またそのサウンド性は“ロック”で括られることが多いが、10年代以降は“SNOW”“NINE”“A HUNDRED SUNS”“ANOTHER PERFECT DAY”といったシューゲイザーロックのような美しくも壮大な楽曲も多く制作されるようになってきた。

生命の躍動を表す激しいロックと生命の尊厳と美しさを表現する静かなロック。
ラストリリースとなった「LAY YOUR HANDS ON ME」もあまりにも美しく、切ないくらい希望に溢れた楽曲である。

音楽に意味を持たせることや明確なメッセージを送ることを嫌う彼らであるから、作品には常にそのときの心情が反映されているはずで、デビューから駆け抜けた19年間は、ひとつのバンドのキャリアで終わらせるものではなく、“生命の音楽”を創作しつづけた崇高なもののように思えるのだ。

BBS_JK

BOOM BOOM SATELLITES
『LAY YOUR HANDS ON ME』

SONY
6月22日発売