UKが誇る老舗Ninja Tuneの代表格として、ダンスとインディロックの架け橋として、今やシーンのキーパーソンとして注目を集めるボノボ。そんな彼が考えるテクノロジー、そして音楽とは……。

今年1月、待望の新作「Migration」を発表し、現代のダンスミュージックとインディロックの狭間をいくサウンドが新たな音楽の萌芽として絶賛されたボノボ。そして、そんな本作をひっさげ、先日の『FUJI ROCK FESTIVAL』では、ここ数年彼が積極的に取り組んでいたバンドセットでのライヴを披露し、オーディエンスを見事歓喜に導いた。

今後のシーンの行方を占う意味でも今世界で最も注目を集めている彼は、音楽の進化についてどう捉えているのか。それを知るべく、新作とライヴ、さらには音楽の進化の一翼に担うテクノロジーについて、大自然がこだまする苗場で話を訊いた。

——プロデューサー、そしてミュージシャン、双方で辣腕を振るうあなたが考えるテクノロジーと音楽の関係は?

僕にとってテクノロジーとは“ツール”だと思ってる。プロデューサーとして頭の中にあるアイディアをスピーカーを通して表現するものであり、なおかつそれをわかりやすくするためにあるものかな。

ただ、テクノロジーは音楽を容易に生み出すことはできるけれど、僕はそれだけに頼って音楽を作っているわけではないんだ。また、テクノロジー……いわばソフトウェアやプログラムといったものがもし失われてしまったとしても、それは何か別の方法で同じアイディアを表現することができる。それがテクノロジーの利便性であり、適度な使い方だとも思ってる。

だから、やっぱり僕にとってのテクノロジーは、あくまでアイディアを表現するためのツールでしかないんだろうね。


——そんなテクノロジーが進化することで楽曲制作における可能性は格段に広がったと思います。その反面、失われてしまったものもあると思うのですが……。

テクノロジーによって失われてしまったもの……それは“限界”だね。僕が最初に音楽を作り始めたときは、まだサンプラーしかなかったんだ。全てがソフトではなくハードで、録音も10秒しかできない、そんな状況だった。当時はラップトップなんてなかったし、本当に限界があったんだよね。でも、だからこそ工夫をして、可能な限り最小限でできることを考えて、あらゆるものを駆使しなければならなかった。そして、自らのアイディアをいかにシンプルに表現すればいいのかを常に考えなければならなかったんだ。

しかし、今は誰もがラップトップを持ち、音楽における可能性や表現領域は格段に拡大した。様々な種類の音やレイヤーをとにかく入れ込むことができ、同時に数多くの音楽を作ることができる。それでも満足できなければまた別のレイヤーやエフェクトを加えたり、あらゆることが無限にできる。つまり、限界がないんだ。そこには確かに無限の可能性を秘めているけど、僕は自らに限界を課すことが今でも重要なことだと思ってる。

それだけに、音楽を作るときはパラメーターのようなものを自分で設定し、あえて楽器やエフェクトを限定したりして、制約を自分の中で作っているんだ。

——逆に進化した上でのメリットはどんなところに感じますか?

今では誰もが音楽を作れるようになったこと、それは進化だと思うな。それが世界的なスターを生んでいるし。例えば、スクリレックスがラップトップ一台で世界を制覇をしたようにね。

以前は音楽を作るにあたっては大金が必要だったんだ。レコードプレイヤーに加え録音機材、さらにはスタジオの費用、全て含めるとかなりのコストがかかっていた。いわば、音楽制作は誰でもできることではなかったんだ。そのため、たとえ素晴らしいアイディアを持っていたとしても世に出てくることはなかったこともあったと思う。その貴重なアイディアを表現する術がなかったからね。でも、今はそうじゃない。誰でも、しかも容易に音楽が作れるようになった。それまでのヒエラルキーのようなものが取り払われ、全ては平等になったと思うな。

——あなたのサウンドはオーガニックとテクノロジーが融合していますが、その点においてインスパイアされたアーティスト、作品はありますか?

一番最初に思い浮かぶのはフォーテットだね。あとは、最近のポストロックのバンドもループを用いたりして音楽を作っているのも気になる。

それ以外だと、やはり自分の身近にいる仲のいいアーティストだ。プレフューズ73やアモン・トビン、今まで一緒に活動してきた彼らには常に最もインスパイアされているよ。それこそ、かつてアモンがやっていたジャズのプロジェクトは音楽を全く別のものへと作り変え、本当に興味深かった。既存のソースを使って全く別の音を作る、そういった行為はすごく面白いと思うな。


——今回の『FUJI ROCK FESTIVAL』では、バンドによるセットを披露してくれましたが、今あえてバンド編成でライヴを行う理由は? そこで表現したいこととは?

音楽というものは、元来アコースティックなところから生まれていると思うんだ。僕自身、バンドといっても多くのエレクトロニックな機材を使って表現するときもあれば、そうではなくアコースティックなものを使うときもある。その領域は実に大きなものだけど、僕はその両方を駆使して、それこそトラディショナルなバンドの音色とエレクトロニックなEDMっぽいサウンドまで僕はバンドで表現する。

つまり、僕の考えとしてはバンドがエレクトロニックミュージックを演奏しているというよりも、音源が人をコントロールしているということなんだ。

——今年リリースした新作「Migration」は、ツアー中に見た風景からインスピレーションを受けたとのことですが、それを具体的に教えてもらえますか。

今作を作るにあたって大きな影響を与えたのは、住居をカリフォルニアに移したことなんだ。今はLAをベースに活動しているんだけど、前作のときにはNYにいた。そして、当時ツアーをしているときに、僕は自分の居場所がわからなくなってしまったというか……竜巻に巻き込まれ、吹っ飛ばされてしまったような感覚だったんだ。

その間は自分がどこに住んでいるのかもわからない、そんな状態のなかアジア、アメリカ、ヨーロッパと世界をまわり、様々な場所を旅していたんだけど、その移動の時間が今作のインスピレーションになっていると思う。そのときのどこにも属していない感じ……どこに住んでいるかも、どこの出身なのかもわからない感じが一番のインスピレーションだったんだよね。

そして、その後カリフォルニアに住むようになり、山や砂漠などいろいろなところへ行き、それがどこも初めて見る景色ばかりでさ。僕はイギリスの緑がたくさんあるところで生まれたんだけど、そこに比べて砂漠は本当に別世界の感じがしたんだ。本当にクレイジーな場所だったね。そういったところからも影響を受けたんだ。

——今回『FUJI ROCK FESTIVAL』に出演された後には、来年の2月に来日が決まっているんですよね。

そうだね、そのときは東京と大阪でライヴする予定だ。日本には過去に何度も来ていて、それこそプライベートで遊びに来たことも数多くある。でも、実はショーをやったことがなくてね。ライヴは今回の『FUJI ROCK FESTIVAL』が初なんだ。来年の公演もすごく楽しみにしているよ。

BONOBO
ボノボ
本名サイモン・グリーン。UKの名門レーベルNinja Tuneに所属し、ジャンルの枠組みを超えたオリジナリティ溢れるサウンドはスクリレックスやディスクロージャーといった世界的アーティストをも虜に。今年1月には最新作「Migration」をリリースし、そこでもまた高い評価を獲得。来年2月には待望の来日公演も決定している。

EVENT INFORMATION

BONOBO来日公演

<大阪>

2018.2.14(WED)

BIG CAT

<東京>

2018.2.15(THU)

EX THEATER ROPPONGI

8/12(土)より一般発売開始