EDMが猛威を振るうなか、今改めて自らの本質、メンタリティである“ハウス” を全面に打ち出したベースメント・ジャックスの新作「Junto」。約5年ぶりとなるアルバムで、彼らはハウス本来の魅力を追求し、より享楽的でパワフル、そして音楽への愛に溢れた作品を完成。
 そんな本作について、『フジロック』のため来日したサイモン・ラトクリフに話を聞いた。

「ハウスミュージックは、しばらくみんなの意識が向いていなかった時期があったと思う。でも、最近再び世界の音楽のレーダーが戻ってきた雰囲気があるし、友人の声がけもあってまたアルバムを作ってみようと思ったんだ」

――EDM全盛のなか、新作「Junto」はまた違ったベクトルに向いていますね。
「EDMは革新的な音楽だし、面白いと思うよ。ただ、個人的にはハウスの要素が少し足りないかな(笑)。体を揺らして踊る音楽というよりは、ロックキッズが盛り上がれるエネルギーを持った音楽だよね。
僕らがそれを見て、そんなものは昔流行ったもの、つまらないと言うのは簡単だけど、16歳の若者にとっては昔のことなんて知らない。彼らはEDMこそ今の音楽だと思っていて、それは素晴らしいことだと思うんだ。若い世代の1つの経験であり、文化だからね。
僕の聴く限りではいいものもたくさんあるし、もちろんチープなものもある。そして、EDMに対して腹を立てている人も知っているけど、選択肢は他にもあるわけでイヤなら聴かなければいい。
EDMも1つのファッションだから、今後衰退していくこともあるだろうしね」

――音楽シーンもこの5年で大きく変化しましたが、ベースメント・ジャックスとしてその間変化はありましたか?
「2年前にスタジオを変えたんだ。以前は窓もなかったんだけど、ノースロンドンのスタジオに引っ越して変わったね。そこには窓があって、空や街並がよく見える。
今回の制作にあたってエネルギーやハングリー精神、インスピレーションを得ることができたよ」

――今作のタイトル「Junto」は、スペイン語で“一緒に”という意味ですが、そこにはどんな意図が?
「前作『Scars』は、“傷”というタイトルだったこともあって内向的な作風だった。でも、今回は全体的なムードが外に向いていて、世界の美しさを表現しているんだ。
僕らのやっていること、ほんの些細なことが世界に影響を及ぼし、よい方向に変えることができるってことさ。
収録曲の1つ“Power To The People”で歌っているように、すべては人々のパワーから始まるというメッセージを伝えたかったんだ。それで今回のタイトルは“一緒に”が最適だと思ったんだけど、“Together”だとありがちだし、何かいい言葉がないか探していたとき、スペイン語圏のパラグアイでのプロジェクト中に友人が“Junto”という言葉を教えてくれて。これはピッタリだと思ったね」

――みんなで一緒に楽しむ感覚、それは過去のベースメント・ジャックス作品に通じるものがあると思いました。
「確かに、感覚的には僕らが最初に発表した2枚の作品『REMEDY』と『ROOTY』に近いね。それは新しいスタジオに窓があったことも大きかった。昔のスタジオにも窓があったからね。やっぱり空が見えること、光があることは僕らにとって重要な要素なのかもしれない。
あとは、当時のディレクターが10年ぶりに参加してくれたのも大きかったね。今作は、そういった制作的なメソッドが昔の感覚だったんだ。
あとは、若い新世代のハウスプロデューサーたちが僕らの音楽を好きだと言ってくれて、自信を取り戻したこともあるね。少し前にダブステップ全盛の時代があって、それはそれで面白かったけど、ソウルが失われ、アグレッシブさだけが押し進められていた。僕らはその音楽の中にハマらない感じがしていたからさ」

――なかでも、“Unicorn”は以前の作風を彷彿とさせるフロアトラックです。
「すごくクールな曲だよね! 僕らも気に入ってる。今回は、自分たちのDJでかけられる曲を作りたかったんだよね。僕らは長年DJをやっているけど、そこでかけられる新しい曲がほしくてさ。
『REMEDY』のころは、まさにそういった哲学、DJでかけるために作っていたんだけど、徐々にクラブだけでなく家でも聴けるような作りになっていたんだ。
そういう意味では、この曲はかつての僕らの哲学で作った1 つの好例だと思う。シンプルでオールドスクールなよさがあり、なおかつ個性もある。単なるダンストラックで終わらない記憶に残るものであってほしいという僕らの思いが具現化された曲だね」

――今作はイントロを除き全曲歌もの、様々なアーティストが参加されていますね。
「今回はたくさんの人にスタジオに来てもらって、いろいろとトライしたんだ。
例えば“Never Say Never” は、当初女性ボーカルにしようと思っていたんだけど、フィリックスが強い歌をガイドボーカルで入れたところ、それがすごくいい感じで、最終的にETMLにお願いしてジェントルな感じになったりね。彼はまだ若いアーティストなんだけど、彼の声じゃないとこの曲はできなかったと思う。
世の中、上手に歌える人はたくさんいるけど、何かを感じさせる声を持っている歌い手は少ない。彼はその1人だったんだ。最近は上手に歌うことに価値を見いだす傾向があるけど、上手なものは慣れると感動が薄れるし、訴えてくるものがないことが多い。
やっぱり気持ちが伝わってこないとダメだよね。それさえあれば上手、完璧である必要はないんだ」

――今作ではイントロで和楽器や和笛が使われていたり、“Never Say Never”のミュージックビデオでは日本がモチーフになっていたり、日本との親和性をすごく感じるのですが。
「ビデオに関してはLA在住のサマン・ケシャ監督に一任していて、僕らからは何も指示していないんだ。出来上がりに関しては、エキゾチックな作品に仕上がって満足しているよ。
日本というとテクノロジーや未来性を連想するけど、僕らにとってはすごくミステリアスな国なんだよね。でも、そんな日本に影響を受けているのも確かさ。日本のスタイリッシュな感じや、音楽やアートに対する熱は好感がもてるし、僕らの音楽に対する反応や受け入れ方も最高だ。
今回のアルバムの日本盤には、フィリックスが日本のアーティスト: CHARA とやった曲も入っているし、僕らと日本のコネクションはすごく深いと思っているよ」

――せっかくなら、タイトルも日本語にしてほしかったです……。
「そうだったね(笑)。次の機会に考えるよ」

bj_jk

Basement Jaxx 『Junto』 Atlantic Jaxx / Hostess 2,560円