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都内近郊では既に公開が始まり、順次全国各地で公開が予定されているドキュメンタリー作品『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』。
直訳すると「バンクシーがニューヨークでやらかした!!」的なニュアンスなのだが、まさにその通り、彼がやりたい放題やらかしている。
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バンクシーは、自身の正体を明かさず社会を風刺するメッセージ性の強い作品をストリートに描き、若者たちを魅力するカリスマ的なアーティスト。
世界各地でゲリラ的にストリートアート、グラフィティを描き、その反体制的な姿勢とオリジナリティ溢れる作品で人気を博している。

2005年には各地の有名美術館に自身の作品を無断で展示し、それが誰にも気付かれることなく展示され続けたことが大きな話題に。
また、彼の支持者には世界的なセレブリティも多く、一連の作品の中には最高29万ポンド(現在のレートで換算すると約4500万円)もの高値で取引されたこともある。
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過去にバンクシーは自ら監督を務め、彼ならではの視点で描いた映画『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』で2010年アカデミー長編ドキュメンタリー賞にノミネート。
これはバンクシーの手によるものではないものも、いかにも彼らしいシニカルな視点で描かれた傑作。

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本作『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』は、2013年10月にバンクシーがニューヨークに1ヶ月滞在し、毎日1点ニューヨーク各地の路上に作品を描き残し、その場所を明かさず公式サイトに投稿するという活動の一部始終を追った作品。

ゲリラ的に出現する作品をSNSを駆使して捜し求めるニューヨーカー達。作品に上書きするグラフィティ・ライター、アクリル板で保護するビルオーナー、作品を売買するギャラリー経営者……そんな彼らを巻き込んで繰り広げられるバンクシーらしいブラックユーモア溢れる確信的な仕掛けは、ジワジワと世の中のメッキを剥がし、見栄や虚構の中に生きるスノッブ・ヤッピーどもをあぶり出しているようにも思える。
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その巧妙なバンクシーの作戦を理解し、共感できるユーモアのセンスの持ち主であれば、今作は実に爽快な気分で劇場を後にする事が出来るだろう。

しかし、そうしたバンクシー共感者ばかりではないのが、世の中の常。
本編ではアンチ・バンクシーな人々も多く映し出され、そのコントラストも非常に興味深く楽しめ、彼らこそが先に例えた見栄や虚構の中に生きるスノッブ・ヤッピーに他ならない。
あなたがどちら側の考えを持っているかによって、本作の感想は大きく分かれるだろう。
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アンチ・バンクシーからしてみれば、「彼は目立ちたいだけ」「あんなのアートではない、アート界の面汚し」という人もいるが、そうした人々には、彼の作品に潜む社会的なメッセージが全く見えていないのであろう。彼の活動はアーティストというよりは「革命家」と定義したほうがしっくりくる。
なぜならバンクシーは、アートというツールを利用した「誰も死なない、血の流れない革命」を、本気で行っているのだと解すればいい。

本編中でもキース・ヘリングやバスキアを引き合いに出す人がいたが、誤解を恐れずに言えば、彼らとの比較はバンクシーにとって失礼極まりない話。
世の中への問題提起、政治、社会的な理不尽に対する意見を前提とした作品と、ドラッグを買うための金や自らの欲望を満たす為に描かれた作品を同列に並べて語るべきではないと思う。

キース・ヘリングやバスキアのようにユニクロのTシャツにプリントされるものをアートだというのであれば、バンクシーはアーティストと呼ばれることを屈辱と思うことだろう。
そして、彼の作品がユニクロのTシャツにプリントされることは後にも先にも無いだろう……。

仮に、もしそのようなことがあったなら、それは物凄いブラックユーモアを込めた伏線が必ず潜んでいるはずだ。
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本作と同時期に公開された映画『バットマンVSスーパーマン』では、人間離れした彼らの能力から、彼らは危険人物だと見なされ世論がざわつき始める。
一方で、バンクシーが壁や路上に「違法」に描いたグラフィティは政治的なメッセージを多分に含んでおり、ある意味悪を倒すためにビルを壊してしまう『バットマンVSスーパーマン』にも似ているかもしれない……。

また、“正体不明のストリートアーティスト”という素性や“平和を目指す悪をあぶり出す社会風刺”という手法は、昨今のアメコミ映画のヒーロー達に科せられたテーマと重なる共通点が見え隠れしているよう。

“理解の範疇を超えた得体の知れないものに不安や脅威を感じる” “想像を超えた力を持ってしまった者を政府が監視下に置こうとする” その時ヒーローと呼ばれる者は世間とどのような距離を保つのか!?
“ヒーローは素性を明かさないもの”。そこに答えがあるのかもしれない……。

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「バンクシー・ダズ・ニューヨーク」は渋谷アップリンクほか大ヒット公開中
2016年3月26日(土)渋谷シネクイント、4月2日(土)渋谷アップリンクほか全国順次公開
http://www.uplink.co.jp/banksydoesny/



KOTARO MANABE
まなべ こうたろう
1969年9月6日生まれ(DJ / フォトグラファー / ライター)
14歳の時に写真を撮り始める。90年代初頭には欧州のバックパッカー達との出会いをきっかけに、タイ、インド等で、彼らと生活を共にする。同時期に出会った、ヨーロッパのダンス・ミュージック・シーンとの繫がりで、92年にはDJ活動も開始。オーガナイザーとしても関わった「EQUINIX」を筆頭にSOLSTICE / VISION QUEST / ANOYO等、追随するイベントの撮影を任命される事により、90年代から2000年代の日本におけるパーティ・フォトグラファーとしてシーンの歴史を記録する第一人者となる。高城 剛 責任編集 『GO! IBIZA ~楽園ガイド~』の撮影を担当する他、DIESEL U MUSIC、渚音楽祭、Big Beach Festival、Red Bull 3Styleほか、SUGIZO専属のオフィシャル・フォトグラファーとしても活躍。年間100本を超える作品を映画館で鑑賞する、シーン屈指の映画ヲタクでもある。