かつて男性名:アントニー・ヘガティとしてのバンド活動で英国音楽界の権威:マーキュリー賞を受賞、そしてこのたび女性名としての名義でアルバム「HOPELESSNESS」をリリースしたアノーニ。

彼女はなぜ歌うのか。それは、アノーニだから。
彼女が彼女でいるためには音楽が必要なのだ。

そして、そこで発せられる歌は自らの真摯な思い。
世界平和や環境破壊、そしてエネルギー対策……様々な問題に対し、彼女は彼女ならではの強く可憐な言葉で問いかけていく。

本作ももちろんそう。世界を憂う彼女が今思うこととは……。

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まず言いたいのは、このレコードは私がアノーニとしてリリースする初めての作品ということ。
友達や家族の前では2、3年前からこの名前に変えていたんだけど、アーティストとしてはまだこの名前は使っていなかったの。

——なぜこの機会にアーティスト名を変えようと思ったの?

そろそろ本当の名前を公にしてもいいかなと思って。それは私にとって新しい冒険のような感じね。

でも、名前を変えたからといって何か特別な変化があるわけじゃないし、トランスジェンダーであることにも変わりはないわ。

ただ、より女性らしい名前にすることは大切なことだったの。いかにも男性的な名前にはもう疲れていたから……。

——同時にアンソニー&ザ・ジョンソンズではなく、ソロになったわけだけど、そのあたりはどう? バンドとソロ、これまでとの違いは?

大きな違いはエレクトロニック・ダンス・レコードということね。

そして、内容がすごく政治的であること。これまで(アンソニー&ザ・ジョンソンズ時代)はもっとのどかでシンフォニックで、音楽が受け身だったと思うわ。

一方で今回はすごくアグレッシヴだし、ダンスミュージックなのよ。

——その音楽性の変化と名前は関係あるの?

音楽のために名前を変えたわけじゃないわ。どんな音楽を作るにせよ、名前は変えていた。

みんな私を“アノーニ”と呼ぶことに変わりはないから。

——アノーニとなって一番の違いはダンスミュージックになったことと言ってたけど、あなたにとってダンスミュージックとは?

大きな喜びね。エナジーが溢れているし、アクティヴでアクションを起こしたくさせるものだと思うの。

ただ、私にとってのダンスミュージックは80年代や90年代に遡るわ。
ブラック・ボックスやテクノトロニックといった、素晴らしいボーカルをフィーチャーしたユーロポップのような音楽ね。

でも、今私がよく聴くのはヒップホップ。あとはバウンスもよく聴いてる。
俗にいうダンスミュージックは正直あまり聴かないかな(笑)。

コンテンポラリーなポップやヒップホップが私にとってのダンスミュージックなの。

——では、今回ダンスミュージックはどのように機能しているの?

それはちょっと複雑。サウンドはダンスミュージックだけど、曲の内容はすごく緊迫感があるから。

正直みんなが踊れるかどうかはわからないわ。実際にパフォーマンスしてみないとね(笑)

——緊迫感のある内容とは、歌の中で現代社会に対して投げかけている様々なメッセージだと思うけど、あなたが理想とする社会ってどんなもの?

理想は政治が女性によって動かされること。割合で言えば……7割が女性で、残り3割が男性ってところね。

女性には集団単位で物事を考え、環境をいかに平和に保つかを考えられる本能があるの。
そして、大きな世界をどのように動かすか、そのガイダンスができるのも女性。

それらは女性が生まれ持ったスキルであって、今私たちが取り入れなければならないものなのよ。
男性は女性ほど世界、そして自然を繋げる能力を持ってないと思う。

女男を分けて考えるのは時代遅れかもしれないけど、身体の作りをはじめ違いがあるのは確かなこと。
両者が同等の権利を主張するためには、女男の差を考えるべきではないと言う人もいるけど、女男の間には違いが存在する。そして、それに基づいた判断にも違いが出るのは当然。

ただ、物理的な力が弱い分、みんなで協力して生きていこうとする女性の本能は、今の地球、世界にとってすごく大事。
今の世の中を救うための重要な要素のひとつだと思うわ。

——その理想はいつか実現すると思う?

私の考えのひとつは夢を持たない限り、それは実現しないということ。夢を持つのは大切なことなのよ。

キリスト教の考えだってそうね。女性を中心とした世界を夢見れば、いつかそれが本当に起こるかもしれないわ。

——もしもあなたが満足する世界が訪れたとき、アノーニの歌はどうなってしまうのかな?

音楽活動はやらないかもね(笑)。音楽以外のものに喜びを見つけ、それを追って生きていくと思う。

ただ、人々を幸せにする活動がしたいな。

——あなたはそうなることを望んでる?

みんながそれを求めているのか、私にはわからない。
ほとんどの人がいまだに自分のチームのために戦っていると思うの。つまり、戦争を望んでいるのよ。

世界を家族として見ることができる人はほんのわずかだけ。自然と自分の間に繋がりを見出せる人も本当に少ない。

みんなもっと世界平和への意識を高めるべきだし、地球に存在する全ての人間をひとつと考えるべきなのにね。

私たちは今、歴史上で一番ともいえるくらいディストピアに生きていると思うの。幸せを感じられない人が大勢いる。
みんな孤独で、経済的にもフラストレーションを抱えているわ。

今という時代に生きるということは本当にチャレンジなことなのよ。
どこにどう喜びを見出せばいいのか、そしてそれが可能なのか……私には答えられない。

5月31日公開のインタビュー後半に続く…

JK_Hopelessness-ジャケ写

ANOHNI
『HOPELESSNESS』

Rough Trade / Hostess
http://anohni.com