約30年もの長きにわたりUKアンダーグラウンド・シーンを見つめてきたDJ/プロデューサー、アンドリュー・ウェザオール。

そんな彼が自身の名義で7年ぶりとなる最新アルバム「Convenanza」をリリース。さらに4月には来日公演も控えているこのタイミングで独占インタビューを敢行!

先日公開した前編では、彼の生い立ちや当時の音楽シーンの印象、さらには友人たちと制作したファンジン(同人誌)『BOYS OWN』のことなど、彼の原点とも言えるエピソードを語ってもらった。

後編となる今回は、よりアーティストとしての側面にフォーカスし、90年代から現在の音楽シーン、そしてアンダーグラウンドを志向し続ける原動力について話を聞くことができた。

――あなたは1990年にプライマル・スクリームのリミックス作品「Loaded」でヒット。さらに彼らのアルバム「Screamadelica」のプロデュースで一躍名を馳せます。
当時は、セカンド・サマー・オブ・ラブからマッドチェスター・ムーヴメントの時期で、バレアリックという言葉も生まれました。
音楽の歴史においても重要な転換期ですが、その頃の雰囲気や熱気などを教えてもらえますか。

「『Screamadelica』は、1991年の作品だけど、俺はそれがアシッド・ハウスと呼ばれる前からシーンに関わっていた。

俺にとってはセカンド・サマー・オブ・ラブは1992年までに終わっていたね。
まだ始まったばかりだと思っていた人もいたけど、俺にとっての『Screamadelica』は、アシッド・ハウスの“end result”のような感じなんだ。3〜4年前に起こっていたことのドキュメンタリーのようなもので、あの作品から始まったんじゃなくて、あの作品で終わりだったんだ。

『Screamadelica』が世に出てから“アシッド・ハウス”という言葉が新聞にも書かれるようになったけど、それまでは呼び名もなく、ロンドンでも300人程度の人間しかシーンに関わっていなかった。

どのムーヴメントも一緒さ。最初はみんな商業的になりたくない。放っておいてほしかったし、俺たちはいつも影に隠れていた。セカンド・サマー・オブ・ラブには太陽の光が降り注いでいたけど、その時も隠れていた。
干渉されずに好きな音楽を聴いていたい。でも、90年代初期のイギリス政府は、ハウスミュージックで踊ることを犯罪行為とした。若い読者は知らないかもしれないけど、そんな時代があったんだ」

――現在、ダンスミュージックはEDMが大きなムーヴメントとなっています。様々なシーンの栄枯盛衰を見てきたあなたにそれはどのように映っていますか?

「アンダーグラウンド・カルチャーは、いつも結果的にポップ・カルチャーになる。ロックンロールもR&Bもモダン・ミュージックも、パンクだってそうだ。ハウスも然り。
アンダーグラウンドには、いつもあとからコマーシャルがついてくる。そんなもんだから俺はあまり気にしていない。

もし20年前に望めば、俺も俗に言う大物DJになれていたかもしれないが、俺はそうしたくなかった。それだけさ。
例えばスティーヴ・アオキを通して、俺の音楽を知ってもらっても、音楽が広まっていることに変わりはないからそれでいい。

好みの音ではないし、EDMに関してはよくわからないけど、俺がスティーヴ・アオキについて知っているのは、ケーキを放り投げていること。それじゃ、音楽に集中できないだろう(笑)。ミッキーマウスみたいなもんで、別の世界の話さ。
見当もつかないから、次の質問に進んでくれ(笑)」

――では、アートの表現方法として、商業的な成功とのバランスはどのようにお考えですか?

「俺はコマーシャルな方へいくという選択はしない。君も一緒だろう。お金を稼ぐことを考えれば、俺みたいな中年のイギリス人DJにインタビューなんかしないはずさ(笑)。

お金よりも、“自分が望む何か”を創ることを選んでいる。好きなことをやってそこそこ稼ぐか、信念とかけ離れたことをやって大金を稼ぐか、ショービジネスの世界で求められる決断のひとつだ。

さらに言えば、俺は人のリアクションを意識しない。作品作りは、やはり自分のためのものなんだ。
でも、DJの場合はちょっと違うね。ギャラを貰ってその場にいる人たちを楽しませるためにブースに立つわけだし、目の前でリアクションが見れるからね」

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――あなたは間違いなくレジェンダリーで、自身で仰るように商業的な成功や名誉を獲得したにも関わらず、アンダーグラウンドに徹している孤高の存在……日本のリスナーの多くはあなたにそんなイメージを持っていると思います。

「これまでに完全にアンダーグラウンドから離れたことはないし、“セルフ・リスペクト”を常に保とうと心がけているんだ。
アーティストとして芯を持って活動を続けていれば、リスペクトはついてくる。こちらからリスペクトを見せれば、返ってくるんだ。

要は、俺は“自分の居場所”を見つけているんだ。
何万人とはいかなくても、何千人のオーディエンスを集めることはできるし、金持ちではないけど生活はできている。アーティストとしてエンジョイできているんだ」

――1番幸せなことかもしれませんね。では、キャリアの話に戻ります。
『Screamadelica』の後、レーベルJunior Boy’s Ownを設立し、アンダーワールドやケミカル・ブラザーズを輩出しますが……。

「あー、実は彼らと契約する前に俺はレーベルを離れているんだ(笑)。
プライマル・スクリームや自分の作品で手一杯になってしまってね。彼らは世界でもっともビッグなダンスミュージック・アクトになったんだ。俺が出た後にね(笑)。
まるで、ビートルズを却下した男みたいだな、俺は(爆笑)。
“出た”と言っても、オフィスに行くのをやめただけで、完全に離れたわけじゃないんだけどね」

――そうだったんですね(笑)。あなたは30年近いキャリアを誇るDJでもありますが、DJという行為はあなたのどのような欲求を満たすものですか?

「例えば、俺がロカビリーやレゲエをプレイしたとしても、それはノスタルジアを求めているからではないんだ。その音楽が、いまでも良く聴こえるからプレイするのさ。
ロカビリーは60年前の音楽だけれど、俺にとってはいまだに新しい世界の音楽に聴こえる。

いつの時代に作られた音楽でも、良ければプレイする。俺はそういった音楽が好きだ。
レコード屋に行って、両手いっぱいにレコードをぶら下げて、できるだけ早く家に帰ってすべてのレコードを一気にかけたい。そんな昔の気持ちがまだ継続している。
新しい発見もまだまだある。俺はあの頃の小僧のままなんだ。探求すればするほど、欲が深まっていく。

そして、そういったレコードを観客の前で初めてプレイするときの、彼らの顔が毎回違っていて、そのフィーリングが忘れられない。
人の顔に浮かんでいる“この音楽は一体なんなんだ”っていう表情を見て、生きていくんだ。吸血鬼みたいなもんさ(笑)」

――これまでに膨大なリミックス作品も手がけていますが、リミックスのオファーを受けて、「これはリミックスする余地がないくらい完璧だ」と感じた曲はありますか?

「ドイツの有名なバンドのカンだね。彼らのトラックのオファーを受けたとき、自分がなんて言ったかいまでも覚えているよ。『彼らの作品をリミックスするというのは、ミロのヴィーナスに腕を付けるようなものだ』ってね。ミロのヴィーナスは腕がなくても、十分に美しい。結局俺はリミックスしなかったが、その後、彼らのリミックス・アルバムが出たんだ。そのタイトルが『Sacrilege』(※神聖冒涜行為)だったよ(笑)」

――あなたはソロ名義の他、セイバーズ・オブ・パラダイス、トゥー・ローン・スウォーズメン、ジ・アスフォデルスなど様々な名義でリリースを重ねてきました。
楽曲制作においてのあなたの信念を教えて下さい。

「オリジナリティは作ろうと思って作れるものではない。“オリジナリティを作ろう!”なんて絶対に思っちゃいけない。
俺が聴いてきたすべての音楽は、無意識に俺の中に存在している。だから、俺はいままで蓄積されてきた音楽のヴァージョン(違い)を作っているだけなんだと思っているし、作りたいものを作っている。
だからこそ逆に自然と、オリジナルなものが出来上がるんだ。急ぐ必要もない。

行き詰まったら数週間放置して、もう一回戻ってみるのもいい。必ずより良いものができるはずだ。
時間をかけて、頭の中でゆっくりと考えることが大切なんだ。

俺は歳だけど、昨日買ったレコードも新鮮だった。俺にはまだまだ知らないことがある。
“我々は答えを何も知らない”とわからせるのがアートなんだ。本でも、絵でも、音楽でも自分が知らなかった世界が存在していることに気づかされる。
だからこそ、人間は毎朝起きるのさ。答えをすべて知っているのなら、朝起きる意味なんてないだろ?(笑)。俺はそういう音楽を作りたい」

――ありがとうございました。4月には来日が控えていますが、最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

「日本のファンには感謝してもしきれないよ。自分の音楽にここまでハマってくれるのは本当にありがたいし、ひとつのことを深く追求する日本人の姿勢は大好きだ。
みんなのことは大好きだけど、クジラを食べるのはやめてくれ(笑)」

アンドリュー・ウェザオールのロングインタビューはいかがだっただろうか。
読書を愛し、“知”を渇望する彼ならではの含蓄のある言葉の数々で語られるセカンド・サマー・オブ・ラブやアシッド・ハウスなど多くのシーンに対する言及は非常に貴重なものである。

今回、新作のリリースタイミングで敢えて新作「Convenanza」には触れなかった。
音楽を言葉で語るより、アンドリュー・ウェザオールに関しては、その人自身を知ってもらい、興味を持ってもらうことの方が重要に感じたからである。

もし、このインタビューで彼に興味を持ったならば、「Convenanza」を聴き、彼の来日ツアーにも足を運んで貰えれば、これほどの喜びはない。

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ANDREW WEATHERALL
『Convenanza』

ROTTERS GOLF CLUB / Beat Records
発売中
Available on beatkart

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『RAINBOW DISCO CLUB 2016』
2016/4/29 FRI~5/1 SUN

会場 : 東伊豆クロスカントリーコース特設ステージ
www.rainbowdiscoclub.com
一般発売チケット(15,000円) 2月より発売開始予定
チケット:楽天チケット

2016/4/30 SAT @WOMB
www.womb.co.jp

2016/5/1 SUN @CIRCUS
www.circus-osaka.com

<インタビュー前編>
アンドリュー・ウェザオールの30年|前編