華奢な見た目からは想像できないほどの骨太なビートと、女性らしいポップネスが融合したプレイで世界中のフェスで話題沸騰中のフィメールDJ、アリソン・ワンダーランド。
来日タイミングで赤裸々に語った、そのキャリア、音楽性、キャラクターとは?

世界中の名だたるフェスで今その名を轟かせている彼女。かわいい。もちろん見た目やキャラクターは最高だ。でも、きっと彼女のプレイや楽曲を聴けば、もっと好きになるだろう。
ビートミュージックの最新の動向を抑えたヒップホップ〜トラップから高揚感抜群のメロディラインまで実に自在に操り、ステージ上でのパフォーマンスもチャーミング。いわゆる陽光たっぷりのキャリアを歩んできたのかと思ったら、実は犬と一緒に音楽を聴いてた引きこもり女子!?

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――日本の印象はいかがですか?

今回プレイするのは初めてだったけど、旅行で2回来たことあるわ。日本が大好きなの!

人が好きだし、ご飯もカルチャーも好き! 日本ってすごくポジティブなエネルギーにあふれていると思うの。日本みたいな国はどこにもなくて、本当に別世界!

――行ってみたい場所はありますか?

ジブリのスタジオ! トトロハウスに行ってみたい(三鷹の森ジブリ美術館)! あとは魚が好きだから、カウンターで握ってもらえるようなお寿司屋さんに行ってみたいわ! とってもクールよね。

そういえば!前回来た時に、新宿のすごく小さなお店が並んでて、クレイジーな場所があったわ!

――ゴールデン街ですか?

そう、めちゃくちゃ楽しかった! 知らない人とたくさん友達になれたの! あと原宿も大好き♪ 今日履いている靴も原宿っぽいでしょ? もう買い物に行くのが待ちきれない! スーツケースの半分は空けてきたんだ。靴をたくさん買いたいから(笑)

――すごく日本のことを愛してくれていてうれしいですね。ラスヴェガスで開催された今年の『EDC』では、ディプロやジョーズと一緒にプレイされていましたよね。

最高だったよ!『EDC Las Vegas』のメインステージでプレイするのは2回目で、その他にも『EDC UK』や『EDC NY』でもプレイしてきたけど、とにかく『EDC』が大好き。特にオーディエンスが純粋に楽しんで、オープンな姿勢で盛り上がってくれるのが最高ね。

そんな場所でディプロとジョーズのようなプロデューサーとプレイするチャレンジはすごく楽しかった。今年のメインステージでプレイした女性は私だけだったし、ガールパワーを発揮してきたよ(笑)。

ディプロとは2014年に『Diplo and Friends』(編注:BBC Radio1のミックスショウ)でミックスをしてからの繋がりで、オーストラリア以外の国でもプレイする機会をもらえるようになったの。

――セットは想定していました?

ノープラン! すごく緊張した(笑)。でもフィーリングが合ったし、DJの理想はセットなんて組まないこと。3人とも全然違うアーティストだけど、即興で、フィーリングでプレイして、それが上手くいったの。ジョーズもディプロも、私が全然プレイしない曲をかけるの。でも、それが逆にいいバランスになったんだよね。

――理想的なB2Bですね。観客の盛り上がりもすごかったんじゃないですか?

観客の多さはCGみたい。現実的じゃないんだよね、目の前で7〜8万人が踊っている光景って(笑)。録画したビデオを見たら、一生懸命手をこすってた。手が動かないくらい超緊張していたから(笑)。でもプレイが始まったら、もう完全に私の世界に入り込んでいたと思うけど。

――数多くのフェスに参加されていますが、あなたにとってフェスとは?

DJをするなら、小さな部屋に私の犬と二人きりでいても、『EDC』のようなステージで8万人の前に立ってもすることは同じ。でも、フェスとクラブでのDJは全く違う。

フェスはクラブほどのオーディエンスとの親密性はないけど、ブースで感じるエネルギーの波がものすごくて、私に直接向かってくるの。DJの役割はオーディエンスを楽しませること。これはどこであろうと変わらないわ。フェスでは必ずしも私のことを知っている人ばかりが来るわけじゃないから、クラブのように私のことを知っている人に向けてプレイをしていればいいってわけじゃないの。

でも、プレイしていて、オーディエンスと一体になれた瞬間って……クレイジーなの! どんなに美味しい食事やセックスよりも最高(笑)

――DJとしての最高の快感ですね。

今まで経験したことのない最高の感覚ね。自分自身がその感覚を掴めている時は、オーディエンスも同じく最高の感覚だと思う。あの規模の人たちとそうやって一体化できたとき、そんなプレイができた後の達成感は言葉にできない。でも、同じくらいクラブでのプレイも大切。汗だくになって踊るアンダーグラウンドなクラブが大好き! 触れ合えるくらい近い距離で、だからこそ感じられるインタラクションがある。だからフェスもクラブもそれぞれのバズがあって、全く違うけどどっちも大好き。

――では、今まで参加したフェスの中で一番最高だったのは?

ひとつは2015年の『Coachella』。アメリカでの初めてのショウだったの。アルバム『RUN』を出した翌週で、オーストラリアのビルボードチャートで1位になったんだけど、アメリカではまだ誰も私のことを見たことがないっていう状況。しかも、お母さんとお父さんが私のプレイを見にオーストラリアからアメリカに来てくれたの。

――それはプレッシャーですね(笑)。

みんなが私のことを知っているのか不安で、バックステージですごくナイーヴになってたわ。その時はまだ外国でのプレイ経験も少なくて。『誰も来なかったらどうしよう……』って。でも、満員だった(笑)。

ただプレイ中はそれを確認する余裕もなくて、左前列で見守っていてくれた両親しか見えなかった(笑)。その時にやっと、お父さんも私がやってることをわかってくれたと思う。お母さんはそういうことにも理解があって、パーティも好き。でも……

――父親はそんなもんですよ(笑)

だけど、お父さんはいつも『あの子を止められないよ、どうしたらいいんだ』って、私の活動を理解してくれなかったの(笑)

――もうひとつは?

2015年の初めての『EDC Las Vegas』。それまでEDMのフェスではプレイしたことがなくて、そのカルチャーがどのくらいの規模のものなのかもあまり想像できてなかったの。だって、家で犬と一緒に音楽を作ってただけだから(笑)。

だから、目の前に広がる世界がクレイジーすぎて泣いちゃった。ベッドルームから始まった世界がここまで広がっていて感動したの。

――犬と音楽だけだった世界が、数万人とフィーリングを共有するってすごい。

でしょ!?あとは、自分でもフェスをやってるの。『Wonderland Warehoues Project』っていう名前でオーストラリアとニュージーランドでね。クラブでの一夜のショウよりももっと“濃い体験”をしてもらえる場を作りたくて、ポスター貼ったり、イケてるビデオも自分で作ってるの。

――なぜ自分で始めたの?

ストリップクラブで酔っ払ってた日があったんだけど(笑)、とにかく音楽が大好きだから細かいことなんて気にせず、ただ音を楽しめるコミュニティに属しているような気持ちになれる場を作りたいって仲間と話したの。ドープなプロデューサーにも声をかけて、ロケーションは毎回バラバラだからバスを用意する。

前回はそれぞれの会場に7000人が集まったよ。2013年から友だちと始めて、今年で3年目。最初は『誰も来なかったらどうしよう』ってビビってたけど、初日にチケットが完売! クレイジーだよね。このフェスは私にとってベイビーみたいなものなの。

――では、あなたが今注目しているジャンル、サウンド、アーティストは?

ハドソン・モーホークが大好き。TNGHTが大好きで、タトゥー入れちゃったくらい(笑)。

アップカミングなアーティストで言えば、バディーっていうLAのラッパーがいて、ファレルのレーベルと契約したの。ケイトラナダがプロデュースしたEPも出たばかり。

あとはサミー・ギャラトリーっていうプロデューサーがいるんだけど、彼も大好き。コラボレーションできたら最高なのは……カニエ(ウエスト)、ケンドリック・ラマー、ヤングサグ……もし実現したら夢みたいだよね!

あとは解散しちゃったんだけど、ザ・ナイフ。2007年頃がピークだったかな。彼らにはすごくインスパイアされてる。音楽を作り始めたのも彼らの影響だから、もし会えたら泣いちゃうと思う!

LCDサウンドシステムのジェームス・マーフィーもそうね。会えたら最高だけど、きっと号泣しちゃってコラボレーションはできないかも(笑)。音楽を作り始めた時に、彼のことをすごくお手本にしたの。ぜひ聴いてみてほしいな。

――あなたの楽曲は、DJプレイと同じくトラップやヒップホップをメインにしながらも、よりポップなサウンドになっていますが、どんなことを意識してる?

私はもともとクラシックなチェロイストで、ヨーロッパでも演奏したりしてたんだけど、トラップやヒップホップは今の時代ポップなものだと思う。

アルバムも作ろうと思えばもっとクラブ寄りのものも作れるけど、テーマを決めて作るんじゃなく、その時の気分に正直に音楽を制作するの。みんなが何を期待しているかなんて一切考えない。正直な気持ちで音楽作りをしてるから、みんなとも上手くコミュニケーションできてると思う。

毎日新しいことを感じるでしょ、その感覚に嘘はつけないし、だったらそれを書き出して、その通りの音にしたい。だから私はそうやって曲を作るし、リスクを恐れないことが大事だと思ってる。セルフエクスプレッションにリミットはかけたくないし、他と違うことってそれ自体がセルフエクスプレッションだし。

――それこそアートの本質ですね。

誰かがTwitterで言ってることなんて全然アートじゃなくて、それはただのつぶやき。私は90歳になったときでも、自分が昔作った音楽に確信を持っていたい。自分の作るアルバムがポップになるかなんてわからなかったけど、完成して、リスナーがそう受け取ったならそれでいいと思う。

今作っているアルバムも、ポップな要素盛りだくさんだよ! ロードの『Pure Heroin』を手がけたジョン・リダルっていう人と一緒に制作を始めて、ノルウェーのプロデューサーのイランジェロや、チャンス・ザ・ラッパーの楽曲をたくさん手がけているリドともコラボしてるの。

――新作楽しみですね!最後にあなたの夢を教えてください。

今やっていることを一生やること! 別に有名になりたくて始めたことじゃなくて、ただハッピーになりたくて始めたんだけど、今があるから頑張りたいことがたくさん生まれた。

もし音楽を取り上げられたら、精神衛生的に良くないかも。音楽を作り続けられる環境であることが大切だと思っているし、音楽を通してコミュニケーションを続けられることが大事。ちゃんとゴールを持ち続けていれば、いろんなことがちゃんと上手くいくと思うの。あとは、いつか映画のサウンドトラックを作ってみたいな!

Photo by Shigeo Gomi
Translation:Ako Tsunematsu
Text:Hideo Nakanishi

Alison Wonderland
アリソン・ワンダーランド
オーストラリア出身のDJ・プロデューサー。2015年に発表したアルバム「RUN」のヒット以降、『Coachella』や『EDC』など世界中のビッグフェスでも活躍。世界人気女性DJランキング「DJanes」の2016年版では2位を記録している。