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「似たアイディアを用いたからといって、新しい音楽が生まれ得ないとは考えていない」
3年ぶりとなる最深アルバム「Damogen Furies」で試された実験について、Warpを代表する孤高のアーティスト:スクエアプッシャーはそう語った。

そんな「Damogen Furies」の本質を追ったインタビュー前編に続き、後編では彼のプライベートな趣味からタイトルセンス、果ては11年ぶりとなる単独公演に至るまで、彼の人となりとともに、音楽的探究心の源に迫っていく。

――「Damogen Furies」は全編に渡って自作のソフトウェアで制作されたそうですね。そのソフトウェアについてですが、今後もその可能性を探り、改良を続けていくのでしょうか?
それはまだ分からないな。僕にとってのテクノロジーの側面は、常に音楽的なアイディアに引っ張られて出てくるものだから。そういう意味で、イエスでもある。もしも自分の中に生まれた音楽的なアイディアがあのソフトウェアの進化を求めるのであれば、その改良・発展にこれからも取り組むだろう。

ただ、これは他の取材でも話したことだけど、あのソフトウェアの開発には長いことかかったし……というのも、あのシステムをいちばん最初に用いたのは、2001年の『Do You Know Squarepusher』だったからね……で、あの頃の僕はかなりの量の作品・活動をこなしていたわけで、ほんと、一時的にあのシステムの開発にほとんどタッチしない期間もあった。そうだなあ、それこそ……2008年から2012年あたりまでかな。その時期は、あんまりこのソフトウェアに携わっちゃいなかったね。
あの当時の僕が追求していた音楽的なアイディアは、このソフトウェアを要するものじゃなかったから。だから……音楽で自分が何をやろうとしているのか、とにかくそのシチュエーション次第ってことなんだよ。

――なるほど。“ニワトリが先か、卵が先か”みたいなものでしょうか?
ある程度まではそう言えるかな。ただ、面白いのは、どんな音楽的なアイディアなのかを伝えることはできても……僕は別にアイディアを得るためにこのシステムを組み立てたわけじゃないということ。とにかく自分の抱いたいろんなアイディアをできるだけ明確に表現するためにこれらのシステムを組んだ。何もマシーンからインスピレーションが生まれるわけじゃない。
要するに、自分のイマジネーションの中にあるものを発信するために、その方法のひとつとしてやっているってことだよ。

――あなたの探究心は、日本の著名な漫画、「BLEACH」という作品に出てくるセリフを思い出します。
(面白そうに)へえ〜?

――それは「私は完璧を嫌悪する。完璧であれば、それ以上は無い。そこに創造の余地は無く、知恵も才能も立ち入る隙がないということだ」です。
なるほどね(笑)。

――共感できる部分はありますか?
ああ、共感できるよ。だから……それって“完璧は死を意味する”ってことだろ?
でも、人間という存在は常にアクティヴに活動し変化しているもので、死ぬまで“何かになりつつある状態”なわけ。そういう意味では、このセリフは『(完璧を求めて)実際に死ぬ前に死んでしまったらおしまいだ』。という風にも捉えることができるね。

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――予想以上の回答で驚きました(笑)。
本作の収録曲のタイトルに非常に興味を持ちました。暗号のように見慣れない単語が並んでいるように見受けられましたが、なにか意味や法則はありますか?

まあ、基本的には自分で言葉の響きが気に入ったもの、音節の並びを発声した際の響きが気に入ったものってことなんだけど……もしも僕がある音楽作品を通じてどうしても何かを言いたい、あるいはその作品にまつわる僕のアイディアを明示したい、真剣にそう思ったら、むしろきちんと説明文を書いただろう。

タイトルは単語のひとつかふたつ程度のものだし、それで何かをちゃんと伝えようとするのはとうてい無理、言葉が足りないよ。

――身も蓋もないことを言いますね。
いや、ホントの話。だから僕がタイトルに使った単語というのは、単にリスナーが色んなアイディアをそこに注入するための容器/管、そういうのに近い。
その意味で、その言葉が『器』としてふさわしいかどうか、それを見極めようとするのがタイトル作りの発想にあったっていうのかな。だから、それらの単語のうちのいくつかは意味や連想を受けつけやすいものだ。
その一方で逆に意味付けを拒むような言葉も混じっている。

そうは言っても、曲のタイトルの中には実際の体験から引っ張ってきたものもあってね。たとえば2曲のタイトルで“Baltang”って単語を使ってるけど、それは僕がガールフレンドとバルト海沿いにある家に滞在していた時に書いたもので、“Balt”はそこからきている。現実を強く踏まえたタイトルだね。

でも、それ以外の曲のタイトルは、それよりも純粋に言葉としての響きが自分で気に入った、その点を重視したものだよ。
まあ、タイトルを作るのにはいくらでもやり方があるってことだし……それに、文字そのものの見え方って面もあるよね。だから字を並べてみて、実際にそれがどういう風に見えるか?っていう。それで、“字の並びが視覚的にどう映るか”、“それらを声に出して読むとどう聞こえるか”といったところまで鑑賞し考える、そのアプローチは、僕自身の言葉の使い方に近いものだと思う。

――なるほど。確かに字の並びやその見た目には不思議な雰囲気があって、「これは英語ベースの言葉なのか、それともヒンドゥー語か何かとか?」なんて色々考えました。
うんうん。でも、そういう風に曲のタイトルが意味を特定することなく、何かを示唆する、それは僕はいいなと思うよ。君はあれらの曲名を見て『こうなのかもしれない、ああなのかもしれない?』とあれこれ考えさせられたわけで、僕からすれば、明解に『これだ』って理解し満足し、思考を停止されてしまうよりはずっといい。

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――11年ぶりの単独来日公演も決定いたしました。まだ詳しい情報は入ってきていないのですが、どのようなライヴになるのか、ご説明いただけますか?
基本的には新作アルバムをベースにしたショウだけど、同時に一部に昔の作品からの楽曲も交えた内容になる。

で……ライヴにどの曲を含めるのかの選択基準は、今回の作品で使ったソフトウェアを用いたもの。僕が今回選んだのはそういうトラックだけなんだ。だから、ソフトウェアの現行ヴァージョンはもちろん、その旧版を使った曲も混ざる。それが今回のライヴの基本方針になるし、それからビデオっていう構成要素もあるね。

――ロンドンのバービカン・センターで行われたプレミア・ショウを観させていただきましたが、あなたの着ていたボディ・スーツそのものが映像のスクリーンとして機能していましたよね?
そうそう、僕自身の身体にヴィジュアルがプロジェクションされるんだ。

――「Ufabulum」(※)のときと同様にマスク(ヘルメット状)を被っていましたけど……
「Ufabulum」= 2012年発表のオリジナルアルバム

ああ、あれは……もっと映像を映写しやすいようにするためだよ。マスクを被ることで人間の凹凸に富んだ顔立ちがヴィジュアルの邪魔になることがない、映像を映し出す平面を作り出そうっていう狙いなんだ。

――でも、あなたの顔が見えないから、人によっては「あの中身はトムじゃなくて、他の誰かがやってる」なんて言い出す可能性もありますよね?
そこが面白いわけじゃない(笑)。

――では、プライベートなこともお聞きします。音楽以外の趣味はありますか?
ああ、もちろん! 僕は他にもいろんなことに興味を持ってるよ。

――でも、以前の取材では「様々な興味も、最終的には音楽作りに繫がっていく」と話をしていましたけど。
ああ、なるほど……。

――音楽作りとは関係ないこと、たとえば釣りが趣味だとか……
完全に音楽とは脈絡がない、そういう趣味はあんまり多くない。
僕は……(沈黙)……哲学に興味があるね。それから古代ギリシャやローマの歴史にも興味がある。でまあ、これらの興味は一見音楽から遠いものに思えるかもしれないけど、例えばこの取材の前のインタビューでプラトンの話が出てきたときも、最終的にどこかで必ず音楽に繫がっていったんだよね。
だから、自分のやることや興味が音楽に戻っていくルートはいつだってどこかに存在する。

それから……うーんと、僕はランニングが好きだね。

――走っている?
うん、まさに『走る』のが好き。それは音楽とは関係のない別の趣味と言えるけど、そうは言いつつも、僕が常に興味を抱いてきたことのひとつに、音楽を通じて想像上の“動き”のフィーリング、あるいは“速度”の感覚を作り出すことができるっていうのがあってね。

要するに、目を閉じた状態で音楽を聴いていると、そこに自分が動いているような感覚が生じる。どういうわけか、そうやって人間はサウンドに耳を傾けることを通じて動作の感覚を生み出しているんだよ。ちょっと気味の悪い話でもあるけど、その相互作用がうまくいったときは素晴らしい体験が生まれるものだと僕は思っている。

――結局、音楽と繋がっていますよ(笑)。では、音楽家以外であなたがやってみたい職業はなんでしょうか?
教師はやりたいね。

――えっ、本当に?
うん。だから、音楽教育はやってみたいな、と。

――なるほど(笑)。
と言っても、それはとても広い意味での音楽教育ということであって、実際的な技術云々だけではなく、哲学やテクノロジーといったものまで包括して教えたい。
だから……もしも今後、いつかレコード作りに飽きてしまったら、うん、たぶん自分がやってるのはそういうことじゃないか、と考えるんだ。音楽作りに関してこれまでに僕は実に多くのことを学んできたわけだけど、それらの知識は必ずしも僕の作る音楽を通じて伝わるわけではない。
だけど、様々な結果へと僕を導いてくれた音楽的メソッドは、はっきりクリアに見えるようなものじゃないんだよ。で、僕は好きなだけ多種多様なメソッドを使って音楽というイベントを生み出すことができるわけだし、それらのメソッドのうちでも有効なもののいくつかを、願わくばいつの日か……音楽を学ぼうとする生徒たちのために役立てたい、彼らに音楽について説明するのに利用できたらいいな、そう思う。

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――では、質問を変えます。真理をひとつだけ知ることができるとしたら、なにを知りたいですか?
(小声でぼやく)参ったなぁ……

――何か「これを知りたい」ということは?
……“死んだら何が起きるのか”みたいなこと、そうじゃない?

――ああ、なるほど。
君だってそう思うでしょ?

――いや、死んだら終わりだと思うので、別に興味はないです。
(爆笑)。いや、だから……僕からしてみれば、ごめんよ、正直に言わせてもらうけども、それってバカバカしい質問なわけ。だから、回答もバカげたものになるだろう、と。

――でも、死後については興味がある?
だから……いや、それは別に僕が深く考えるトピックでもなんでもないし、興味もないよ。
ただ、質問は『真実を知れたら何を知りたいか?』ってことだし、その意味ではこれはとにかく自分には絶対に答えを見つけようがない、実際に死んでみない限り分からない不可能な疑問なわけだろ。だから、例に出したまでだよ。

――日常的に多彩な“音”に溢れていますが、どの時点から人間は音を音楽と認識すると思いますか?
そうだね……

――たとえば今、私たちはこうしてお客に溢れたカフェ・ラウンジで話していて、彼らの話し声は自分にはノイズであり、ただの“音”なわけですけど。
それは見方次第なわけじゃない? たとえばジョン・ケージは空っぽなコンポジション、沈黙の曲でその点を指摘したわけだし。

――“4分33秒”ですね。
そうそう! だから僕たちが音と音楽との間に境界線を引く、そのやり方というのは文化に育まれた思考構造なんだよ。僕たちは『これは音で、ここからは音楽』という風にごく当然のように線引きしているけど、実際はその考え方そのものが文化的な構造。
で……ジョン・ケージ、それから他の一部のコンポーザーたちもそうだけど、僕が思うに彼らは音楽に関する概念を押し広げようとしたんだよね。その過程で、彼らは過去には“雑音”とみなされていた様々なサウンド、あるいはそれまで求められることのなかった音を音楽の中に含めるようになっていった。そうやってジョン・ケージは、音楽というアイディアの幅を広げようとしたわけだし、従ってトータルとして、音楽は環境音他のいろんなサウンドまで包括するものになっていく、と。

だから、伝統的に音楽というのは“求められる音から作られたもの”であって、ノイズは“不要な音”とみなされていたわけだよね。でも、なんでそこで区別する必要があるのか? そうではなく、サウンドの世界を丸ごと理解しようよ、と。

――ということは、あなたにとっては音と音楽との認識はその人間の聴き方次第だ、と。
音楽というのは人間が構築する創作物なんだよ。言い換えれば、音楽はサウンドの世界に僕たち人間が形として当てはめ、押し付けている何かだ、ということ。

――例えば、電車が通過する音もあなたの耳には“音楽”に聴こえることがありますか?
それが僕にとって音楽か、あるいは音楽じゃないか、いちいち考えたりはしない。それが僕にとって興味深いサウンドであれば、それで充分なんだよ。
だから、『これは音楽か、果たして音楽じゃないのか?』なんて疑問を抱いたりはしない。っていうのも、そのサウンドを聴いて僕は楽しめているんだし、自分にはそれで充分なんだ。

――なるほど、面白いですね。日本語では“Music=音楽”というのは、「音の喜び」、あるいは「音を楽しむ」っていう意味の言葉なんですよ。
へえ、そうなんだ! それは面白い話だな、知らなかったよ。今日もひとつ、何か新しいことを学ばせてもらったよ(笑)。

Damogen Furies
SQUAREPUSHER
『Damogen Furies』
BEAT RECORDS / WARP

『SQUAREPUSHER AT THE GARDEN HALL』
2015/5/15 FRI @ザ・ガーデンホール(恵比寿)
【OPEN】18:30
【TICKET】ADV ¥5,940(1D別) DOOR ¥6,500
【INFO】www.beatink.com 03-5768-1277(BEATINK)
【プレイガイド】BEATINK WEB SHOP “beatkart”
e+ / チケットぴあ(Pコード:257-891) / ローソンチケット(Lコード:73082) / tixee / Clubberia

『The Star Festival』
2015/5/16 SAT @スチール®の森(京都)
ACT:SQUAREPUSHER / DJ KOZE / ZIP / LONDON ELEKTRIC CITY / Fumiya Tanaka / PITER VAN HOESEN / MARCO SHUTTEL / LAWRENCE / AXEL BOMAN and more
【OPEN】18:00【TICKET】ADV¥7,500
【INFO】www.thestarfestival.com

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