ヒップホップ史上、歴史的名盤と言われる「Illmatic」の20周年記念ライヴを披露するナズやエリカ・バドゥの出演も決定し、その本物志向のラインナップがますます話題沸騰中の「StarFes.’14」。ここでは、その中からヒップホップシーンにおける伝説的グループ:パブリック・エネミーをフィーチャー。30年に渡る活動の中で、絶えず社会と闘い、そしてシーンをサバイブしてきた彼らの生き様をとくと見よ!

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YO! Bum Rush the Show

1987 年リリースのPE のファースト。ヒップホップの歴史上で重要な1枚なのは当然として、’87 の「NME」誌では年間ベストアルバムを、「ローリングストーン誌」からは「500 greatest albums of all time」にもセレクトされるなど音楽史においてもエポックメイキングな作品。この時代だからこそのトラックのざらついた生々しさと荒々しさ、チャック・D の攻撃的なラップとリリックが革命前夜の趣を醸しだす。“You’re Gonna Get Yours”“Public Enemy No.1”など彼らの代表曲を収録。

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It Takes A Nation Of Millions

To Hold Us Back

PE の代名詞とも言える作品で、「Public Enemy Ⅱ」の名でも知られる。本作でPE のスタイルが確立されると同時に、商業的にも彼ら最大のヒットとなり、ヒップホップを一般層に浸透させる非常に大きな役割を果たした。“Bring the Noise”“Don’t Believe the Hype”を筆頭に“白人至上主義”“人種差別”を叩くブラックムスリムの思想を全面に出し、ドラッグへの警鐘など多岐に渡るコンシャスなメッセージとアジテーションが、革新的にサンプリングされたブレイクビーツに乗って躍動する。人種もジャンルも超越してロック層からも強烈な支持を獲得したヒップホップの金字塔。

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Fear Of a Black Planet

曲間なしのノンストップというコンセプチュアルな内容となったサード。リリース前に、メンバーのプロフェッサー・グリフが反ユダヤ発言をしてグループから追放されるなど物議を醸したが、彼らの芸術的なサンプリングとポリティカルなメッセージ性はより強固に。救急車の黒人居住区への対応の遅さを非難した“911 Is a Joke”やアイス・キューブとビッグ・ダディ・ケインをフィーチャーした“Burn Hollywood Burn”を収録。90 年代のヒップホップ黄金期を形成する大きな役割を担い、プラチナレコードに認定されるヒットを記録し、彼らの人気は絶頂期を迎える。

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Apocalypse91…

The Enemy Strikes Black

90年代に入り、徐々にジャンルの壁をぶっ壊すミクスチャーサウンドが生まれ始めるが、ヒップホップとロックを融合させたのが、ランDMCであり、PEだった。本作にはセカンド収録の“Bring the Noise”の、スラッシュメタル・バンドであるアンスラックスとの共演バージョンが収められており、こういった先進的なプロダクションこそがPEの真骨頂であり、後の音楽シーンに多大な影響を与えた。いまなお色褪せない熱量は、ぜひ一聴してほしい。またピート・ロックのリミックスで有名な“Shut’Em Down”のオリジナルなど良曲が並ぶ。

05_pe_1994Muse Sick-N-Hour Mess Age

94年作。この頃になると、西海岸ではドクター・ドレー、スヌープ・ドッグ、2パックといったギャングスタラップが台頭し、東海岸でもノトーリアスB.I.Gやナズらが人気を誇り、ヒップホップが市民権を得たゆえの細分化が始まっていた。過激なリリックで社会批判をするPEのスタイルはエンターテインメント性を求めるリスナーからは、やや説教臭く感じられ、またメンバーのフレイヴァー・フレイヴが複数の刑事事件を起こし、勢いは失速。本作を境にPEは活動休止状態に。リリース時の評価が芳しくなかったのは、メッセージ性と現実生活での乖離が影響したか。

06_theres-a-poisonThere’s a Poison Goin On

前作「MUSE SICK ~」リリースの後、目立った活動がなかったPEは、盟友でもあるスパイク・リーの映画「HE GOT GAME」のサントラにて98 年に復活。そして翌年、これまで栄光をともにしてきたDef JamからインディのAtomic Popにレーベル移籍してリリースしたのが本作。そのレーベル移籍の裏には、実はインターネット配信を巡る対立があったとも言われており、いまでは主流となったMP3のダウンロードを、そんな文言が一般的に普及していない90年代に彼らは本作で実現。音楽のビジネスモデルに関してもPEの先見の明が光る作品である。

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REVOLVERLUTION

2002年にリリースし、PEがそのパワーを改めてまざまざと見せつけた快作。レーベルはKochから。社会的なメッセージ性、メディア・権力批判は往年の輝きを取り戻し、鋭く世相を斬る。収録曲である“Son Of a Bush”に見られるように、「9.11同時多発テロ」以降のアメリカ・ブッシュ政権の戦争へ進む政策を批判。03年にはイラク戦争が勃発することになるが、PEは本作を引っ提げてワールドツアーを敢行し、“Make Love, Fuck War”を標榜して精力的な活動を展開した。社会情勢の変化を監視し続け、権力の横暴を許さない。彼らの原点がよみがえる。

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NEW WHIRL ODOR

“NEW WORLD ORDER =新世界秩序”をもじったタイトルの05年作。「REVOLVERLUTION」の項で述べた“Make Love, Fuck War”のテーマは、モービーとのタッグという異色の組み合わせによって“MKLVFKWR”の曲に結実。イラク戦争を非難した同曲は、アテネ・オリンピックの公式アルバムにも収録されるなど、一定の話題を集めた。結成(82年)から20年以上経っても、グループの信念、ヒップホップの精神性がブレずに活動を続けてきたPEは、本作以降も3 枚のアルバムを発表し、いまだヒップホップシーンにおいて存在感を示し続けている。