|2| ダンスミュージックメディア編

主要音楽メディアにつづき、いわゆるダンスミュージックを専門にするメディアの2014年のランキングをチェックしていきたいと思う。
ひとえにダンスミュージックと言えど、ジャンルは多岐に渡り、メディアの傾向も異なる。ここでもFLOORの独断と偏見によってセレクトしたメディアから、楽曲ではなくアーティストに焦点をあてて、2014年のシーンを紐解いていきたい。

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主なダンスミュージックメディアの年間ランキングチャートはこちら
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圧巻のオランダ勢! ハードウェルが2年連続で1位を獲得

「DJ MAG」による毎年恒例の「TOP100DJs」もEDMの盛り上がりとともに飛躍的に注目度を増してきた。
同ランキングは、オーディエンスによる投票により決定するのが最大の特徴。オーディエンスの意見がダイレクトに反映されることと、参加型のため投票者自体がランキングを楽しめることもあり、もっともポピュラーなDJランキングだと言える。

さて、1位に輝いたのはオランダのハードウェルで2年連続の栄冠となった。
同ランキングがスタートしたのは1997年。今年で18回目となるが、その内10回の1位がオランダ勢だ(アーミン・ヴァン・ブーレンが5回、ティエストが3回、ハードウェルが2回)。ダンスミュージックが国家なんじゃないの?ってなくらいオランダではトランスやビッグルームハウスが馴染んでおり、実際に現在のEDMシーンを牽引しているアーティストも多い。

今年のランキングでは、3位にアーミン・ヴァン・ブーレン、4位にマーティン・ギャリックス、5位にティエスト、8位にニッキー・ロメロ、12位のアフロジャックと上位をほぼ独占。アンセムを生み出し、プレイでも大きな盛り上がりを見せているビッグネームだらけなので文句のつけようもないが、あえて穿った見方をするとそこまで一国に偏るものかな~なんて。漫画の人気投票で、「あのキャラがまさか!?」のような感覚に近いかもしれない。
またジャンルはほぼEDM系(トランス~エレクトロ・ハウス)で埋め尽くされている。ダンスミュージックシーンすべてを包括しているわけではないが、オーディエンス、シーンのトレンドを確認できる指針としては(特に近年はEDMのおかげで投票数も増えているだろうし、組織票の影響もそこまで大きくないはず)、“いま”が見える納得のランキングか。

幅広いジャンル、世代から1位に選出されたのはあの兄弟!

1983年に創刊したダンスミュージックメディアの権威である「mixmag」。同誌も毎年多様な年間ランキングを発表しているが、今回ピックアップしたのは、「THE TOP 20DJS OF 2014」。
30年以上にわたりダンスミュージックシーンを追ってきた目も耳も肥えた専門家たちが作成する点が「DJ MAG」との違いであり、この手のメディアにありがちな“玄人好み”な選に偏らないのがポイント。ジャンルのレンジの広さもカバーしており、あらゆる面でフラットなランキングが信頼を獲得している。

彼らが選んだ今年の1位はマルチネス・ブラザーズ。NYハウス~ディスコの系譜を受け継ぐ正統後継者が評価されたのは、やはり現場でのプレイのスタイリッシュさだろう。パーティの聖地であるイビサ島では圧倒的な人気を誇っており、EDMのような派手さはないもののグルーヴと一夜の流れを作る巧みさ、音楽の造詣の深さで“グッドミュージックによる空間”を創出し続けた。
Resident Advisorの項で後述するが、一昨年、猛威を振るったジェイミー・ジョーンズやセス・トラクスラーら新世代ハウス~テックハウスのアーティストたちのなかでも頭ひとつ抜き出た形となった。
2位は本誌にも幾度となく登場してきた、“DJとしてもっとも神に近いとされる男”DJハーヴィー。「mixmag」の面白さは、この後にスクリレックスがくること。ランキングを見ていると先述の3人やMK、スヴェン・フェイトなど、意外とリンクしているのは、「Ibiza DJ Awards」の受賞者や、イビサで人気パーティを開催しているDJが多いことがわかる。ベテランから若手、ハウス、テクノからドラムンベースまで幅広いジャンルからもれなく選出されているので、EDMからダンスミュージックに興味を持った方には新鮮に映るかも。
ちなみにEDMシーンからはスティーヴ・アオキの20位がトップだった。

大きな変動はないものの、シーンの機微が反映される

21世紀の始まりの年にスタートしたダンスミュージック専門のウェブジン:Resident Advisorは、先に紹介した2つのメディアと比較すると、よりアンダーグラウンドにも目を配った独自性の高いランキングとなっている。
トップを獲得したのは、2年連続でディクソン。また3位にはアームが選出されるなどレーベル:Innervisionsのパーティでのプレイ、楽曲など質実剛健ともいえるクオリティが高く評価されている。
また2位には、イタリア人デュオ:テール・オブ・USが2年連続で2位。セス・トラクスラー、マセオ・プレックス、ベン・クロック、ベンUFO、リカルド・ヴィラロボスと昨年トップ10入りしたアーティストもそれぞれ10位以内をキープするなど、上位陣には大きな変動は見られなかった。

その中で注目すべきは、8位にランクインしたナイアル・マニオンのプロジェクト:マノ・ル・タフ。バレアリックなプレイスタイルの根底に流れる緻密な感情表現は、ストーリー性が抜群で一夜をドラマティックに演出してくれる。またミニマルハウス~ダブの新鋭RØDHÅDも9位にランクアップ。リッチー・ホウティンやリカルド・ヴィラロボスが順位を下げるなか(若干ではあるが)、次世代ともいえる彼がフィーチャーされている点が、ヨーロッパを中心に回るテクノシーンでの趨勢が見ることができて興味深い。

とにかくよく世の中で流れたダンスミュージック系のアーティストがこれ

最後はBillboardの「Dance/Electronic Songs」からアーティストのチャートを紹介したい。
楽曲ランキングとの連動も当然あるが、Billboardはフィジカル、ダウンロードの売上、YouTubeやストリーミング再生の視聴数など独自の総合ランキングとなっているので、大雑把に言えば、“もっともよく聴かれたアーティスト”のランキングとも言えるかもしれない。

1位はアヴィーチー。アルバム「True」(2013年)の影響が今年も大きかったのか、ワールドツアーは体調不良によりキャンセルとなるなどネガティブなイメージもあったが、2014年には「The Day」、「The Night」のシングルを発表。「True」でのカントリー、アコギを使用した方向性をさらに強めた内容となっていて、“脱EDM”をさらに推し進めている。
2位には「今年世界で一番稼いだDJ」であるカルヴィン・ハリス。3位、4位には「Turn Down For What」ほぼ1曲でここまで上り詰めたと言っても過言ではないDJスネイクとリル・ジョン。9位にアリアナ・グランデを入れるのはどうなんだ?とは思うが、カワイイから許してください。そのアリアナ嬢の「Break Free」を大ヒットさせたゼッドもランクイン。
「DJ MAG」や「mixmag」のランキングとの連動性もほとんどなく(アヴィーチーやマーティン・ギャリックスくらいか)、ダンスミュージックにさほど興味のない人でも、「この辺なら知っているランキング」になっている。つまり俯瞰で見たランキング。これはこれで面白い。

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